世代間の交流をプログラムに組み込むマンションも登場

 子育て中の共働き世帯にとっては、マンション内の子ども向けイベントに参加することで、親同士のコミュニケーションを深めることも可能になる。だが、子どものいない共働きカップルやシニア世帯が参加できないと、世帯間で断絶が生じてしまいかねない。

 そこで最近の取り組みとして、子どもとシニアという世代を超えた交流を促すイベントを導入するマンションも出てきている。2011年9月から入居が始まった埼玉県戸田市のグランシンフォニア(大成有楽不動産、平和不動産、NTT都市開発、ヒューリック、神鋼不動産)では、入居当初から子どもの年齢別に子育て交流会を開いたり、現在でもバレエ教室や空手教室などの活動が行われており、シニア世代が夏祭りなどのイベントの手伝いを通して子ども達と交流する場も設けられている。また、横浜市鶴見区で分譲中のオーベルグランディオ横浜鶴見(大成有楽不動産、京浜急行電鉄、菱重エステート、長谷工コーポレーション、ナイス)では、クリスマスイベントや近隣企業の工場見学などのイベントのほか、横浜国立大学との連携で子育て世代の親子に向けてシニア世代が読み聞かせをするプログラムを実施する予定だ。

(左)シニア世代による絵本の読み聞かせは3世代をつなぐ交流のきっかけにもなる(画像提供/大成有楽不動産)/(右)子育て世代を対象とした交流イベントを開くマンションも少なくない(画像提供/大成有楽不動産)
(左)シニア世代による絵本の読み聞かせは3世代をつなぐ交流のきっかけにもなる(画像提供/大成有楽不動産)/(右)子育て世代を対象とした交流イベントを開くマンションも少なくない(画像提供/大成有楽不動産)

「今のシニア層の中心である団塊世代は、マンション内のイベントなどに積極的に参加する人が多いようです。一方で子育て層であるポスト団塊ジュニア世代は適度な距離感で人とつながるのが上手で、男性が子育てやイベントに参加することに抵抗が少ないように思えます。今はマンション内での3世代の交流も、進めやすくなっているのではないでしょうか」そう話すのは、これらのマンションでイベントなどのコミュニティー支援を手がける、エヌ&エス コミュニティアソシエイツ取締役会長の鎌田菜穂子氏だ。

コミュニティーは住民の財産にもなる

 同社では過去20年余りにわたり、40を超えるマンションや一戸建てのコミュニティーを支援してきた。分譲前のコミュニティー支援計画の立案から、入居後のコミュニティークラブの運営まで一貫して携わるスタイルだ。多くは入居から1~2年程度、イベントやサークル活動を支援する形だが、スタッフがンションに常駐し、コミュニティー活動に関する相談業務などを管理スタッフの一員として長期にわたって手がけるケースもある。例えば2013年3月に入居開始の千葉県船橋市のプラウド船橋(野村不動産、三菱商事)では、敷地内に設置されたクラブハウスで地域情報の紹介やコミュニティー支援を行っている。またさいたま市南区で分譲予定の武蔵浦和SKY&GARDEN(新日鉄興和不動産、三菱商事、三菱地所レジデンス)では、周辺住民も利用できるカフェを設け、マンション住民によるサークル活動の紹介やイベント情報などを提供していく計画だ。

「この仕事を始めたきっかけは、インターネットもない時代にニュータウンに引っ越した人たちが、知らない人ばかりの中でだれかとつながりたいという思いを支援したいと考えたことでした。その考えは今も変わっていません。イベントのサポートだけでなく、地域の保育園や幼稚園などの子育て情報や、親子で参加できるイベント、住民同士のサークルを立ち上げるお手伝いをすることでコミュニティーがつくられれば、長く暮らすなかで顔の見える関係が安心・安全も育み、住まう皆さんの財産になるでしょう」(鎌田氏)

エヌ&エス コミュニティアソシエイツ取締役会長の鎌田菜穂子氏。20年以上にわたりマンションなどのコミュニティー支援をしてきた
エヌ&エス コミュニティアソシエイツ取締役会長の鎌田菜穂子氏。20年以上にわたりマンションなどのコミュニティー支援をしてきた

 鎌田氏自身、ずっと共働きで2人の男の子を育てた経験から、地域のコミュニティーの重要性は身をもって感じているという。「子どもが保育園のうちは預けられる時間が長いのでそれほど心配はいりませんが、小学校に通うようになると子どもだけで留守番をさせなければなりません。特に小学校4年生になると学童にも通わなくなるので、親のいない状態で長時間過ごすことになります。そんなとき、隣近所に知り合いの同世代の家族や、見守ってくれるシニア世帯の方がいることは、それだけでとても心強いことなのです」

 今回、訪れたサンシティでは30年余りの年月の中で、世代を超えたコミュニティーが自然発生的に形成されていった。だが、それ以外のマンションでは、世代間はおろか隣近所のコミュニティーさえつくられてこなかったケースが少なくないことも事実だ。東日本大震災以降はコミュニティーの重要さが見直され、鎌田氏たちが手がけてきた支援業務が活発になりつつある。夫婦ともにフルタイムで働く世帯が増えている今だからこそ、住まいを買うときにコミュニティーという視点から物件を選ぶ事は、ますます重要度を増しているといえるだろう。

(文/大森広司、撮影/武田光司)