震災をきっかけにコミュニティー重視の傾向が強まる

さとゆめの嶋田俊平取締役。農山村向けのノウハウを生かし、マンションのコミュニティー形成を支援する
さとゆめの嶋田俊平取締役。農山村向けのノウハウを生かし、マンションのコミュニティー形成を支援する

 サンシティでは住民による自主的なクラブ活動から祭のような大がかりなイベントに発展し、コミュニティーが築かれていった。だが、分譲当時から広場や集会室、カルチャーセンターなど、住民が集まれる仕掛けが設けられていたことも事実だ。ひるがえって近年の分譲マンションではまとまった規模であれば共用施設が充実しているが、スポーツジムやカラオケルームなど、あまり利用されない施設も少なくない。小規模なマンションでは集会室も設置されず、住民が集まるための物理的なスペースが足りないことも多い。

 だが、最近になってマンションを供給する側にも住民側にも、コミュニティーを重視する傾向が強まっているようだ。「きっかけは東日本大震災だった」と話すのは、農山村や都市部のマンションなどでコミュニティー形成の支援に携わるさとゆめ取締役の嶋田俊平氏だ。

「震災では水道や電気などのインフラが止まってしまい、隣近所の人と助け合うしかありませんでした。マンションのハードだけではいざというときに十分な価値を提供できないことに、デベロッパーが気づいたのです。そこで住民同士のつながりを支援するには何をすべきかを考えるため、2011年7月に三井不動産レジデンシャルが中心となって『サステナブル・コミュニティ研究会』を立ち上げました。私も立上げからコンサルタントとして参画しています」

分譲時のあいさつ会に9割以上の住民が参加するケースも

 同研究会が三井不動産グループが管理している関東エリアのマンション、1600棟の管理組合を対象として実施したアンケートによれば、コミュニティー形成について「特に活動していない」が63%にのぼり、具体的に「部会等を設置している」との回答は4%にとどまった。だが、管理組合に活動の実施を提案すると、前向きに取り組むケースが多かったという。「研究会でコミュニティー形成の重要性をまとめた冊子をつくり、防災訓練や季節のイベントなどプログラムの提案を行いました。これまでに1900件余りの管理組合に提案したところ、半数以上の組合で防災訓練や居住者懇談会などなんらかの活動を実施しています」(嶋田氏)

 また三井不動産レジデンシャルが分譲するマンションについては、2012年4月以降、すべての新規物件で「入居あいさつ会」を入居開始後半年以内に実施することにした。マンションの共用部で2時間ほどかけて、自己紹介や防災セミナー、植栽観察ツアーなどをするイベントだ。自己紹介では各自が住戸の部屋番号や名前を記した名札を付け、小グループに分かれて趣味や特技などを紹介し合う。

「これまではマンションに住んでも表札を出さず、なるべく人に会わないのがセキュリティーに有効という考え方がありましたが、発想を180度転換しました。当初は自己紹介などしてもらえるのか心配でしたが、思いの外みなさん積極的で、なかには9割近い住民が参加するケースもあります。デベロッパーが考えている以上に、住民はつながりを欲していたようです」(嶋田氏)

 とはいえ、入居あいさつ会や防災訓練などのイベントを実施すれば、自動的に良好なコミュニティーがつくられるというわけではない。「マンション居住者向けの調査をして分かったことは、会釈やあいさつ程度の『相互認知型コミュニケーション』だけでは、悩みの相談や助け合いといった『課題解決型コミュニケーション』まで発展しにくいということです。立ち話や電話・メアド交換といった『親密型コミュニケーション』がつくられることではじめて、いざというときの課題解決につながるのです。そのためにはお互いの人間的魅力や豊かさ・生きがいなどでつながることが求められます。入居あいさつ会で趣味や特技を紹介し合うのも、そのためのきっかけの一つなのです」(嶋田氏)