積極的に女性社員が継続して働くことができる体制作りを進めている大和証券の取り組みについて、鈴木茂晴会長に聞くインタビュー。最終回では最新の取り組みと今後の課題について聞きました。(聞き手は鈴木亮・日本経済新聞社編集委員、羽生祥子・日経DUAL編集長)

鈴木茂晴会長(以下、鈴木会長) 今、うちが力を注いでいるのは「復帰」なんです。

鈴木亮編集委員(以下、鈴木亮) 育休からの復帰ですか?

鈴木会長 そうです。ご存じの通り、営業という仕事は熾烈です。損を出したら顧客は怒る。だから常にマーケットを見ていないといけない。でも、見ているだけではダメで、ずっとそこに浸っていないと分からないものがあるのです。

育休復帰直後は「リハビリ」が必要なことも

鈴木会長 育休を取り、会社へ行かない間、どれだけ熱心に新聞を読み、テレビを見ていたとしても、マーケットの感覚は失われます。1年間離れたら1年分なくなっているのです。顧客とのやり取りの感覚もそうですね。

 営業という仕事は「熱い風呂」なんです。復帰していきなり「入れ」と言われても入れません。すぐに復帰できないところがあります。何より育休を取っている本人が、子どもの顔を見ながら、再びあのとんがった中で生きていけるのか、不安を感じることも多いようです。

羽生祥子編集長(以下、羽生) 私が育休に入っていたときも、新聞の経済面が読めなくなりました。5行読んで、また意味が分からなくなって、また1行目に戻ってというのを3回ぐらい繰り返して、あきらめてしまった。天気予報しか読めないんです。「もう経済誌の記者はできない」って思いましたね。

鈴木会長 だから育休から復帰した人のために、最初は「クライアントサポート課」という部署に所属してもらうことにしました。

羽生 どんな部署なんですか?

鈴木会長 店頭に来た人への対応と、扱いがある顧客に電話をかけるのが仕事です。

鈴木亮 取引をしたことはあるけれど、最近はあまり取引がない顧客に電話をかけるのですね。

鈴木会長「今こういうものが注目されていますよ」と情報を提供し、商品を提案する。営業をサポートすることもあります。イベントを企画している営業マンが持ってきたリストを基に、「今度こういうイベントがあるのですが、いかがですか」と電話をかけていく。これが大きな戦力になっているのです。

 しかも、この部署は課全体としての評価は受けるけれど、個人としては評価されないんです。

鈴木亮 なるほど、いきなり最前線に復帰しなくていいわけですか。

鈴木会長 復帰するときは優しく、ですよ。ただし、その部署にいる限りは、1億円の投信を購入していただいたとしても、自分の成績にはならない。だから意欲のある人は、半年くらいたって、マーケットの感覚を取り戻したら、その部署を出ていく場合が多いんです。

鈴木亮 リハビリテーションですね。

鈴木会長 リハビリ期間がないと現場には戻りにくいんですよ。やっぱり不安なんです。「戻ってすぐ、みんなと同じ仕事ができるのかな」って。そう考えると、クライアントサポート課は体を以前に戻すためにはいい部署だと思います。