羽生 ただ辞めてはいけないといっても、会社側の理解や制度も必要になりますよね。

 以前、私は鈴木編集委員が編集長を務めた『日経マネー』で記者として働いていました。そのときに妊娠が分かったので、報告したのです。「実はできまして」と言ったら、間髪を入れず「よかったね」と言われた。報告する前は困った顔をされるのを予想していたので、びっくりしたのを覚えています。

鈴木亮 それは単に頭が悪かっただけです。後のことまで気が回らなかったんですよ(笑)。

鈴木会長 いえ、上司のそういう態度が一番重要なんです。

上司が嫌な顔をしたら、その制度は「ない」と同じ

鈴木会長 我々が支店長に常に言っているのは「産休や育休など、色々な制度があるけれど、その制度を利用したいという申し出を上司が快く受け取らなかったら、ないのと同じだ」ということです。上司が嫌な顔をするとわかっていたら、申請を出せないでしょう。

鈴木亮 作っても活用されなかったら、ないのと一緒ですものね。

鈴木会長 うちの支店はそういうことが言いやすいのではないかと思います。部下から妊娠の報告があったら、まず「それはおめでとう」と伝える。そして「色々サポートするから、戻ってきてね」と言う。そういう雰囲気を作るようにしています。

鈴木亮 雰囲気は大切ですよね。

鈴木会長 言い出しやすい雰囲気がなければ、制度の意味はありません。言うと何となく気詰まりになりそうなので、言い出せず、結局その社員は辞めてしまう。それではいけない。うちの人事部は、支店長研修のときに、それを強く伝えています。

鈴木亮 大和証券という会社はそれが空気なわけですよね。だから女性が産休や育休を取りやすく、戻ってきやすい。結果的に社員も辞めない。

鈴木会長 本当に雰囲気が重要なんです。

鈴木亮 こういう会社がもっと増えればいいのですが、まだ経団連クラスの会社でも、キャリアの女性が「育休を取りたい」と言うと「それは痛いな」と答える上司が多いと聞きます。ましてや男性社員が「妻が出産しました、育休を取らせてください」なんて言ったら、簡単にはいかないでしょうし、もし取れたとしてもその後の昇格や昇級に不利になることも多いと思いますね。

 でもそれは仕方がない部分もあります。管理職はそういう教育を受けていないのですから。問題は経営者にそういう発想がないことですね。会社の雰囲気を変えられるのは絶対にトップですから。

鈴木会長 おっしゃる通りですね。トップが強い意志を持って臨まなければ、部下には伝わらないし、雰囲気も変わらない。それは間違いありません。

(第2回、第3回に続く)

(構成/日経DUAL編集部 大谷真幸 写真/清水盟貴)