東京の文京区立青柳小学校には、子ども達に喜んでもらえる給食を追求するため、自宅に巨大なスチームコンベクションオーブンを設置した名物栄養士がいる。こうやまのりおさんの著書、『世の中への扉 めざせ! 給食甲子園』にも登場する松丸奨さん。明るい笑顔と朗らかな挨拶が印象的だ。

 「明るい表情で仲良く調理することも、給食をおいしくする秘訣なんです」と松丸さんは笑う。松丸さんは食材を運搬する配送業者、納品業者、調理員など給食に関わる人々の人間関係・チームワークをとても大切に考えている。難しい顔や悲しい顔、仲が悪かったり、会話がなかったりする現場から「おいしい給食」ができるわけがないからだ。

 給食現場を改善し、新しい試みに挑戦しようとしても、栄養士一人の力には限界がある。松丸さんは、「栄養士にとって校長や担任、保護者と一体となって取り組むことが必須だ」と肝に銘じている。

東京都文京区立青柳小学校の栄養士・松丸奨さん<span style="font-size: x-small;">(写真提供/講談社)</span>
東京都文京区立青柳小学校の栄養士・松丸奨さん(写真提供/講談社)

「給食の安全・安心」は、徹底した衛生管理から始まる

 「給食室は、青柳小学校の中で一番清潔な場所だと自信を持って断言できます」(松丸さん)

 1996年に大阪で起きた0-157による食中毒事件を境に、「衛生」は給食を語るうえで最重要項目となった。多くの学校はそれまでウエットシステム(床に水をまいて汚れを洗い流す方式。常に床がぬれている状態で作業を行う)だった調理室をドライシステム(調理作業の際に床が乾燥している状態を維持する方式)に替えた。現在、全国どこの学校の給食室でも給食センターでもこの方式が徹底されている。青柳小学校も例外ではない。調理室を床に水を流さない仕様にし、室温の上昇を抑え、衛生的で調理員にとっても良好な作業環境を実現した。

 調理室は各エリア(前室/検収室/下処理室/調理室/洗浄室)に分かれている。すべての作業が各エリアで完結するようにし、エリア間を移動する要員を最小限にすることで「人は動かず、食材だけが動く」方式で菌の移動を防いでいる。

 エリア間の移動時には専用の靴に履き替え、違う色のエプロンに付け替え、手洗い・アルコール消毒を行うことが徹底されている。

 さらに栄養士、調理師、納品業者(配送者を含む)を対象に細菌検査を月に2回実施し、検査を受けていない教職員や児童は立ち入り禁止となる。この衛生管理体制が全国で徹底され、学校給食を原因とする食中毒の発生は、現在、年間でもほんの数件に抑えられているという。