「このシステムの手本となったのは、宇宙食を作るときに導入された『ハサップシステム』です」(こうやまさん)

 完全に衛生的な宇宙食を作るシステムを基準にして、大量調理の際のルールを国が定めた。例えば、0-157は75度以上の温度で1分以上加熱すると死滅するため、食材はすべて75度以上の温度で、焼く、蒸す、煮るなどする。生野菜をなるべく使わない、食材はあらかじめ切ってからゆでる、といった決まりがある。また「調理後2時間以内」に食べることという制限も設けられた。

 ここまで紹介した衛生管理マニュアルはほんの一部にすぎない。毎日の給食を子ども達に安心して食べてもらうために、調理師ほか関わる人々は日々苦労と努力を重ねている。さらに、献立を考える栄養士は栄養価や味付けだけでなく、調理場の調理師にとっての調理しやすさも考え、子ども達が喜ぶメニューを編み出している。「子ども達のリクエストに応えたいという思いが強く、苦労を苦労と感じない」と松丸さんは言う。

トロトロのチーズ入りハンバーグのためなら、1カ月間続くハンバーグの試食も厭わない

 松丸さんが六畳一間の自宅のワンルームマンションに巨大なスチームコンベクションオーブンを自腹で導入したのも、「新しいメニューを試作する際、家庭用の小さな調理器具だと給食室とは作る条件が変わってしまう」という理由からだ。

 給食室で調理に使う機械を使っておいしく作ることができるか、何百人分もの料理を手際よく作れるか、それを試すためなのだという。そのため新しい料理を考え始めると、毎日毎日同じものを食べ続けることになる。そこから生まれた自信作は、ナイフを入れたら中からとろりとチーズが流れ出てくる「チーズ・イン・ハンバーグ」。


松丸さんが考案した給食献立「チーズ・イン・ハンバーグ」

 6年生の女子児童が「先生、私はこんな給食を食べたい」と紙に書いてリクエストしてくれた料理だ。このレシピが完成したときの彼女のはじける笑顔で、努力が報われたのは言うまでもない。だが、今でも松丸さんのレシピノートは子ども達の食べ残しから推測できる反省点と自分へのダメ出しの赤字でいっぱいだ。