タチウオからできる和歌山県の伝統食「ほねく」を使った「ほねく汁」、埼玉県地元名産の山芋を使った「ふわふわ野老汁(ところじる)」をはじめ、日本全国津々浦々その土地ならではのバリエーション豊かな郷土料理が、日々の給食の献立として配膳されているのは驚きでもある。

 塩分を控えるために重要になるのは出汁(だし)だ。羅臼の昆布、鹿児島のサバなど、出汁に使われる素材は本物だ。山と海の恵みに囲まれた地方ほどおいしい給食が作られ、一方で東京都心の学校給食においては「東京の食材・素材」の発掘、確保が課題点となっているという。

 しかし当然ながら、子どもたちが毎日笑顔とともに給食を食べられる状態を維持するには栄養士や先生方や調理師の方々の日々の努力、各地の生産者の協力、研さん、切磋琢磨が欠かせない。こうした数々の事実を目の当たりにし、「かくして全国の給食現場を取材するという“深い森”に分け入ったわけです」と語るこうやまさん。

 「フランス語で風土を意味するテロワールは地方料理を指しますが、給食はテロワールそのもの。現代の人々は、享楽的な都市型の食文化をありがたがって高いお金を払うことよりも、地方に出向き、生産者に敬意を表す意味で、産地の食材を食す楽しみを求める傾向にある。折りしも人々の意識が変わってきている今、給食の地産地消の動きは自然な流れなのです」

食欲を満たすだけでなく「知能も満たす」ことに特色がある、日本の給食

 郷土色、ローカル色が強まる日本の給食だが、日本の給食の素晴らしさは世界でも注目されている。

 「最近ドイツでは『ドイツは日本の学校給食から学ぶことができるのか?』という本が出版されましたし、中国でも『100年以上の歴史を持つ日本の給食制度は厳格であり、見習うべきだ』という報道がありました」(こうやまさん)。