著者は、テレビ局でTVディレクターとして勤務しつつ、一般会社員の夫と娘の3人家族で共働き生活をしていた。そこに突然降り掛かった「夫の海外赴任」。悩んだ末、2013年、家族でタイに引っ越すことを選択した。海外で生活する共働き世帯ならではの立場から、考えたこと、挑戦したことを綴る――。

わが子に経験してほしいこと、学んでほしいことは何だろう?

 2013年から海外で生活することになったメリットの一つは、娘の教育について夫婦でとことん話し合う機会が持てたことだと思う。

 それまでは、お互いに忙しく働いていたせいか、夫婦の会話の多くが、スケジュール調整や土日の家族アクティビティーという実務的な内容に偏りがち。どんな家族になりたいか、どんな子育てをしたいかといった「本質的なこと」を話す時間はなかなか取れなかった。

 でも、海外でインターナショナルスクールに行くとなると、そう言ってもいられない。教育を通して娘にどんな経験をさせたいのか、何を優先するのか、私達が親としてフォローできることは何なのか……。お互い時間を見つけては娘の教育のことについて意見を交わすようになった。

 話していくうちに分かってきたのは、「世界中どこにいても生き抜いていける人になってほしい」というのが私達夫婦に共通した願いだということ。本当は日本の公立小学校に行かせたかったが、海外に来た以上は他国の仲間と共に学び、切磋琢磨してほしいという思いも共有していた。

 だが、急に環境を変える以上、娘の精神面でのフォローはもちろん、その先にある様々な可能性も検討する必要がある。欧米やアジアでの生活経験を持つ帰国子女の友人や、帰国子女の子どもを持つ方々に、メリットとデメリットを聞いて回る日々が始まった。

日本で仕事の合間にネットでリサーチ。夫抜きで学校見学へ

 前回の記事「バンコクは『子連れ生活』しやすい成長都市に変身」でも少し触れたが、バンコクには多数の学校がある。英国系、米国系のインターナショナルスクールをはじめとして、インド系、シンガポール系、フランス系、オーストラリア系……と様々で、教育内容も多種多様だ。

 とりあえず、インターネットでひたすらリサーチし、メールで直接問い合わせることを繰り返した。入学試験が必要かどうか問い合わせたり、学校見学を予約したりと、日本にいてもできることはある。

 現地で暮らす母親達から聞く話も重視した。学校のパンフレットに書いていないことを最も知っているのは、実際に学校にわが子を通わせている親達だから。駐在から帰国した友人やまだ現地にいる知人に一通り話を聞き、あとは通う本人の意向が一番大事だということで、最終的には娘と一緒に学校見学をして決めることにした。

 実際に見にいくとその学校のイメージは大きく変わった。見る前までは良い印象だったある学校は、なぜだか窮屈に感じたりする。私以上に娘が「ここはなんだかちょっと違う」と言う。不思議なものだが、相性もあるのだろう。百聞は一見にしかず、ということか。

 結局、娘が「絶対にここがいい!」と言った学校は1つだけ。他の3校は、「ここ以外はどこも同じ。ここじゃないならどこでもいい」ということだった。なるほど、第1志望、第2志望……と手堅く順番を決めるというのは、大人の発想なのかもしれない。

 親子の意見も一致していたので、あとは入学試験に合格するだけだ。かくして娘は人生初の試験を受けることになった。