「老後資金準備の先送りは禁物、まずは60歳までに3000万円貯めるという目標を立て、早めのスタートダッシュが大事」。前回の記事ではこう紹介したが、実際にどう運用すればいいのだろう。もちろん、定期預金などでコツコツ増やす方法もある。だが、老後に向け少しでも資金を増やしたいと考えるなら、高い収益が見込める株式などを加えた運用も検討してみたい。

インフレ時に備え、株式投資にも挑戦

 現在、日本銀行の黒田東彦総裁は「2年程度のうちに2%の物価上昇」を目標に掲げ、大規模な金融緩和政策を継続する方針だ。これまでは、物の値段が下がり続ける「デフレ」が当たり前のように思えたかもしれないが、これからは実際に物価が上がる中での暮らしに対応していく工夫も必要になる。「今後は銀行などの預金金利が物価上昇のペースについていかない可能性もある」と見通しを語るのはイボットソン・アソシエイツ・ジャパンCIOの小松原宰明氏。物価上昇する中で預金金利が上がらなければ、銀行に預けたお金は、その価値が次第に目減りするのだ。こうした事態に備えるためにも、物価上昇していくインフレ時に強い株式投資がより重要性を増してくる。

 株式投資と聞くと「値動きが激しくて不安」と感じる人も少なくないだろう。そこで目を向けたいのが、株式に加え、株式と違う値動きが期待できる債券などの資産に分散投資をする方法だ。「国内外の株式、債券の4資産を組み合わせて投資すると、各資産の値動きが相殺され、株式のみに投資した場合に比べてリターンが安定する」(小松原氏)という。

 実際、過去に株式や債券がどんな値動きをしたかについて、図:1を見てみよう。この中の5つの図は、国内外の株式や債券が毎年どれだけ収益(リターン)を得られたかを示したものだ。一般に債券より株式のほうが値動きが激しいという特徴があるが、国内外ともに株式のみに投資した場合の図③④を見ると、グラフが上下に大きく振れているのが分かる。つまり株式は、大きくもうかった年が多かった半面で、大きく損をしてしまった年もそれなりにあったということだ。

 一方で、⑤の国内外の株式、債券の4資産に25%ずつ投資した場合はどうだろう。さすがにリーマンショックによる世界的な金融危機に見舞われた2008年には大きく値下がりしてしまったが、それ以外は多くの年で収益はプラスになった。マイナスが出た年も、株式のみに投資した場合に比べてマイナス幅がぐっと抑えられていることが読み取れる。

 前回の記事では「毎月少額でもいいのでコツコツ積み立てを続けてほしい」と強調したが、資産形成においては「投資先の分散だけでなく、投資時期も分散させるのが安定的に増やすコツ」(小松原氏)という。