私が子どもの頃はまだ世間には共働きに偏見があり、郊外の新興住宅地では保育園に通う子どもを「貧乏で可哀想な子」と決めつける空気すらありました。猛烈サラリーマンと専業主婦に子ども二人という家族のモデルがいかにも当たり前のように喧伝されていた頃の話。いまだに日本の社会はそのモデルを元に作られているから現実との齟齬ですっかり立ち行かなくなっているけど。

 でもって私は玉の輿志向で大学生になって、このエッセイの初回「私が玉の輿願望を捨てた理由」で書いたように失恋を機に働く女になろうと決めたのですが、今となっては本当にそうしてよかったと思います。働く人の気持ちがわかるって大事なことだから。出産や独立に踏み切れたのも夫が働いていたおかげ。子どもも保育園でたくさんのことを学んで育ったし、いろんな大人に出会えてほんとに良かった。

予想外!夫が「会社を辞めたい」と言い出した

新しい働き方を考えている頃、家族みんなで出かけたハワイの空。実に味わい深い心持ちでした…。
新しい働き方を考えている頃、家族みんなで出かけたハワイの空。実に味わい深い心持ちでした…。

 ところが1年前、夫が仕事を辞めると言い出しました。おっと、それは予想外!私が辞めたときと同じように、彼なりに筋の通った理由があって、一度きりの人生を大切にするがゆえの決断です。今となっては大賛成なのですが、最初に聞いたときにはびっくりして思考停止に。これから私が大黒柱ですか!まじですか!怖すぎ!

 しかし2度も産休を取れたのも、会社を辞められたのも、彼の理解があったから。あのとき彼は、妻が無収入になるかも知れないリスクをとってくれたんだ。そうか、今度は私だな。よし、がんばるぞ……。

 …と決心したものの、何しろ生来の小心ゆえ気持ちがゆれゆれです。家族を背負って働くって半端ない責任感!ガード下で飲みながら愚痴ばかり言ってるおやじを今までバカにしていたけど、必死に働いてるのに妻子に冷たくされたら、そりゃ飲んだくれてくだ巻きたくもなるだろうな、なんて思わず共感。