「正社員になると、転居を伴わない範囲ではありますが、転勤があるのです。今は実家を出て、娘と二人暮らしです。自宅から徒歩圏内の支店だから、家事や子どものことと仕事を、なんとか両立させています。これが正社員となり、仮に通勤1時間となってしまうと、年収的には余裕が出ると思いますが、収入以外の面で生活が破たんしてしまうと思うのです」

 斎藤さんが正社員で働いていた頃、「39度の熱を出しても休めなかった」のを思い出す。結婚し、家事や育児もこなす今、家族や親の協力が見込めないのに、とても当時のようには働けない。

 「夫とは音信不通で、金銭的にも一切支援を受けていませんが、まだ正式に離婚もできていません。こうした状況のせいか、子どもも精神的に不安定です。やることが山積し、とても正社員には踏み切れないのです」

ジレンマはある。でも、夫に耐えていたころよりはずっといい

 自らパートを選んでいるが、割り切れないものはある。

 キャリアを積めば積むほど、周囲から頼られる。若い正社員から、質問をされることもしばしばだ。例外的な処理が必要だったり、判断に迷う案件や、クレーム対応などを、決まって「押しつけてくる」正社員もいる。

 「やっぱり腹が立ちますよね。私は、自分がやっている仕事がどのレベルなのか。同じ仕事をする正社員の賃金がどのくらいなのか、知っていますから」

 自らの収入が娘との生活を支えている。腹が立つことがどれだけあっても、仕事を辞めるわけにはいかない。正社員になることも、生活状況が許さない。いかんともしがたいジレンマ。

 「いろいろと思うことはあります。でも、これが私が選んできた生き方です。短大に通っていたころは、自分がこんな人生を歩むとは想像もしなかったけれど、夫の借金に苦しみながら働いていた当時より、今の方がずっといいと思えますから」

 今は対処のしようがない問題も、苦しくとも意思をもって働いていれば、いずれ環境が変わり、解決してくれると考える。

 来年には、子どもも中学生になる。部活で帰宅が遅くなったり、友達同士でどこかに行ったり、塾通いも必要になるだろう。そうなれば、子どもとの関係が変わり、必要なお金も増えてくる。その時に向けて、どうするか。

 今の会社で正社員になるのか、あるいは他の仕事を探すのか。自らの心の声に耳を澄ませつつ、新たな道へのスタートを切るタイミングは、そう遠くないかもしれないと思っている。

(取材・文/働きかた研究所 平田未緒)