その日に限って、いつもは時間より早く到着するベビーシッターさんが来ませんでした。休日なので、シッター会社のオフィスは休みで電話には誰も出ません。10分待ったところで、シッター会社に「子どもは連れて出かけます」とメールを書き、おむつを5枚入れた袋とパンをつかみ、2歳の娘に「車に乗るよ~」と声を掛け、上着を着せて慌てて家を出ました。

男女で賃金に差が出るのは、まともに考えると「非常識」だ

 タクシーで到着したのは明治大学の駿河台キャンパス。前から「絶対に行きたい」と思っていたシンポジウムが開かれている会場でした。中国電力の男女賃金差別訴訟について、原告と原告側弁護士、そして統計の専門家が話すというもの。男女で賃金に差があるという、「もしかしたら、日本の企業社会では当たり前と思われているかもしれない。でも、まともに考えると非常識なこと」について、当事者と支援者が報告する会でした。

 原告の長迫忍さん(写真)は、1981年に高校卒業後に中国電力に入社。以来、同社で働き続けてきました。女性には、男性の補助的な仕事が割り当てられる職場環境でしたが、長迫さんは自ら申し出て、男性の仕事と考えられていた業務も担当しました。そして、病気で休みがちな主任をサポートし、後輩育成に携わってきました。ところが、長迫さんが育成した男性は昇格・昇進していくのに、長迫さん自身はずっと平社員のままでした。

シンポジウムで講演する長迫忍さん<span style="font-size: x-small;">(写真提供:<a href="http://wwn-net.org/" target="_blank">WWN</a>)</span>
シンポジウムで講演する長迫忍さん(写真提供:WWN

 そこで勤続27年が過ぎた2008年5月、長迫さんは男女賃金差別を理由に、会社に対して職能等級と職位の確認と損害賠償を求めて、広島地方裁判所に提訴しました。けれども広島地裁は、2011年3月に請求棄却の判決を言い渡し、長迫さんは広島高等裁判所に控訴しました。この控訴審では、会社から2001~2011年の賃金データが提出されており、それを見れば同じ学歴の同期入社の社員を比較した場合でも、男女の賃金格差は明らかでした。

性差別賃金を最高裁判所に上告

 2013年7月に広島高裁は長迫さんの控訴を全面的に退けます。男女で昇格や賃金に格差があると認めながら、これを男女差別ではないと判断したのです。長迫さんは同年9月に最高裁判所に上告しました。