老後の年金は現在、原則25年以上制度に加入することで支給される。若いころに5年企業に勤めて厚生年金に入り、その後結婚して「第3号」になり30年たったという人には老後の年金がきちんと出る。

 でも、最後の10年は「第3号」ではなく、パートで厚生年金に入ったという女性がいたとすると、そのパートで10年働いた分はきちんと老後の厚生年金として反映され、そのまま「第3号」であり続けたときよりもずっと年金額は増える。

 厚労省の2006年時点の試算によると、「第3号」だった人が1年間だけでも月収10万円のパートとして厚生年金に加入したとすると、その1年で保険料負担は9万円増えるが、平均寿命まで生きた場合の年金額は約16万円増えるという。

一概に「損だ得だ」とは言えないけれど

 少子高齢化の影響で年金の支給水準は将来的に20%ほど目減りするとも推計されており、以前の試算のままとはいかないだろうが、制度が破綻することは考えにくく、生きている限り支給される年金の意義は働けなくなくなったときこそ大きい。

 一方、厚生年金に入るようになると、同時に健康保険にも入ることになる。それまでは夫の会社の健康保険に被扶養者として加入していた妻であれば、自分の健康保険料負担も新たに発生することになる。健康保険については将来の見返りなどはないので、純粋な負担増ではある。

 パートで厚生年金・健康保険に入ることは、様々な利害得失がからみ、一概に損だ得だとは言えないかもしれない。でも女性たちが労働時間の壁や年収130万円の社会保険料負担の壁などを気にせず働くようになり、150万、200万と収入が増えていけば、税や保険料負担によるマイナスを超えて手取りも多くなっていく。実際、今でも年収が130万円をちょっと超える程度だと、税や保険料負担のために130万円未満で働いたほうが有利だが、160万円程度以上になれば手取りが増えていくという試算もある。

 女性の自立、社会保障制度における負担の公平性、長生きするほど有利な年金の増額など様々な観点から考えてみると、パート女性が厚生年金・健康保険に加入することは間違った選択ではなさそうだ。

 パートを多く使う企業はパートを社会保険に加入させると、事業主分の保険料負担が生じるので、基本的には反対しており、一筋縄では進みそうにはないが、専業主婦優遇という「第3号」制度も、今のところ、この方向によって徐々に縮小していくと見るのが最も現実的と言える。

(文/日本経済新聞社編集委員 山口聡)