しかし、「老後は夫の厚生年金で夫婦共に生活する」という方法だと、夫婦が熟年離婚した場合、妻には年金がまったくないという事態が生じた。もし働く場がなかったとしたら、まったくの無収入になってしまう。生活保護を受けるなどしなければ生きてはいけなくなってしまう。専業主婦でも、国民年金に任意で加入し保険料を納めていれば、自分の年金がもらえたものの、すべての専業主婦が保険料を払えるわけではなかった。

 そこで、「女性の年金権の確立」という名目で保険料負担なしでも国民年金部分だけはもらえる「第3号被保険者」制度ができた。第3号被保険者分の保険料は、第2号被保険者全体で負担する仕組みとなっている。

 さて、ここまで読んだ多くの方は「若いころに働かず、自分の分の年金保険料を払うこともなしに、年をとったら自分の分の年金がもらえるというのは、やっぱり専業主婦優遇ではないか」と思うだろう。しかし、もう少し詳しく見ていくと、必ずしもそうとは言えない面も見えてくる。

保険料を払わなくても年金はもらえるけれど……

 夫が会社員で月給50万円、妻が専業主婦で収入はゼロという片働き小林さん世帯と、夫婦ともに会社員で夫月給30万円、妻月給20万円という共働き鈴木さん世帯を考えてみよう。小林さんの奥さんは「第3号被保険者」だ。ぱっと見れば、小林さんの奥さんは自分の分の保険料を払わなくても老後の年金が約束されているのだから、小林さん世帯の方が「保険料でも、もらえる年金でもずっと得」と思いがち。ところが、実はこの2つの世帯、保険料負担額も年金給付額も同じなのだ。

 厚生年金保険料は、現在、月給やボーナスに対して一定の料率を掛けて計算する。現在の保険料率は17.12%。ただし、計算を単純にするため、ここでは15%で計算する。

 小林さん世帯の場合、夫の50万円の収入に15%を掛けると、保険料は7万5000円。これを会社と本人で半分ずつ負担する。一方、鈴木さん世帯は夫の方が30万円×15%=4万5000円。妻は20万円×15%=3万円。合計すると小林さんのところとまったく同じだ。

 年金給付額はどうなるのだろう。「40年間、年金制度に加入する」などの一定の前提を置いて計算してみる。

 小林さん世帯では、夫の厚生年金月14万円と夫の国民年金(基礎年金)6万6000円で、夫分が合計20万6000円(ちなみにこの金額は平均よりかなり高い)。妻分は国民年金だけで6万6000円。世帯で合計すると27万2000円。

 一方、鈴木さん世帯の夫分は厚生年金8万4000円、国民年金6万6000円で計15万円。妻分は厚生年金5万6000円、国民年金6万6000円で計12万2000円。世帯では27万2000円。こちらもまったく同じなのだ。