「老後のお金も心配だけど、まずは憧れのマイホームを。そして教育資金もしっかり貯めなくては」。特に若い世代の夫婦は、こんなふうに子どものこと、マイホームのことばかりに気持ちが向かいがちだ。でも、自分たちの老後の備えも、子どもやマイホームと同じくらい大事なこと。準備を先送りするのは禁物だ。ファイナンシャルプランナーの前川貢さんは「老後資金づくりは、たとえ1万円でも早いうちから始めるのが理想」と話す。成功のコツはスタートダッシュをいかに早くかけられるか。老後と呼ばれる時期までたっぷり時間がある、今こそ始め時なのだ。

「60歳までに3000万円達成」が目標!

 何事も続けるためには目標が必要。とはいえ、老後はまだまだ先の話だ。いったいいくら貯めればいいのかピンと来ないとしても無理はない。まずは「とにかく60歳までに3000万円貯める」と決めて、挑戦してみるといいだろう。これが一般的に安心とされる、1つの目標額の目安となる。日経DUALが2013年11月に調査会社のマクロミルと共同で実施した調査でも3000万円前後を視野に入れている人が多かった。「老後までに準備しておきたい貯蓄額はいくらでしょうか?」という問いへの答えは、「1000万円以上~2000万円未満」が22.6%と最も多かったが、「2000万円以上~3000万円未満」が19.3%で2位。合わせると41.9%となった。

調査は日経DUALが2013年11月に調査会社のマクロミルと共働きの人など2000人を対象に共同で実施した
調査は日経DUALが2013年11月に調査会社のマクロミルと共働きの人など2000人を対象に共同で実施した

 なぜ3000万円も老後資金が必要なのか。ざっくりでもその背景をつかんでおくと、資産形成のプランが立てやすくなる。例えば総務省の家計調査(2012年)では、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の実収入の平均額は年金を含めて22万円弱。一方の支出額は約27万円とされる。

 つまり、年金で暮らしていくと、毎月約5万円、年間で見ると約60万円の赤字になってしまう計算だ。通常、赤字分は貯金から取り崩すことになるのだが、このペースで赤字が続けば、20年後には貯金の取り崩し額は1200万円。30年後には1800万円にのぼり、これが準備できていないと貯金は底をついてしまうのだ。

 これだけではない。もう一つ忘れてならないのが、定年退職してから年金を満額受給するまでの空白期間のこと。仮に60歳で会社を退職して、65歳に到達するまでの5年間、何も年金をもらわない場合はどうなるか。前述の月平均支出額27万円を基準にすると、必要な生活費は年間約320万円以上。5年間で約1600万円を上回る資金が必要という計算になる。

年金で暮らしていくには、ひと月当たり約5万円が不足する計算になる
年金で暮らしていくには、ひと月当たり約5万円が不足する計算になる

 結局のところ、60歳~64歳までに必要なのは1600万円。これに加えて年金を受け取り始める65歳以降は20年後の85歳時には1200万円、30年後の95歳時には1800万円が必要。これらを合計すると3000万円前後の資金が必要ということに。こう考えると「老後資金向けに60歳時に3000万円あると安心」と言われているのも、現実的な話として納得できる。

 「まず老後に準備すべき目標額を先に決めてから、マイホームや教育資金の予算を決めるべき」と前川さんは助言する。