中川 だから子どもが朝来たら「あら、今日のお洋服、ステキね。誰に着せてもらったの?」と話しかける。「ママ」と言ったら、「いいママね~」と言う。するとニヤ~って笑うの(笑)。ママを褒めちぎる。そうすると子どもはコロッとまいっちゃう。

 ホント、子どもってお母さんが好きなこと。もう妬けちゃうくらい。結局、17年間保育の仕事をして何が分かったかというと、保育者はナンバーワンにはなれないということでした。絶対お母さんが一番。どんなお母さんでもいいんですよ。「こんなお母さんよりも私のほうがいいのに」と思ってもダメ(笑)。

お母さん、自信を持って!

中川 私の保育園はお弁当だったので、お弁当の時間になるとお母さんの話で盛り上がる。お母さんの作ってくれたお弁当から始まるんだけど、何でも自慢のタネになるの。その自慢のタネがかわいくてね。

「うちのママは英語ができるんだよ」と言うと、みんなが大げさに「すごーい」。すると別の子が「うちのママはここにほくろがあるんだよ」と言ってやっぱりみんな「すごーい」。すると別の子が「うちのママはゴキブリをスリッパでたたいたんだよ」「すごーい」(笑)。何でも自慢なのよ。

 子どもをほめるときは「お母さんが喜ぶわよ」と言うのが一番いいんですよ。ちょっとまずいときにはね、「そんなことをしたらママが悲しむでしょ」って言う。それが一番こたえる。お母さんには分からないでしょう(笑)。

 子どもも、保育園に預けられてお母さんから離れたほうが、お母さんの良さが分かるんじゃないかしら? 一緒にいるとけんかばかりしているでしょう。うちの保育園にも保育園に来る道々ずっとけんかしていたりする親子がいましたよ(笑)。

 今でも覚えているのは、うちの保育園に通っていた3歳の女の子が、保育園に来るなり、「先生、うちのママ、嫌な女よ」と言ったの(笑)。夫婦げんかでお父さんが言ったのかな。子どもの口から「嫌な女よ」という単語がすらりと出たのでびっくりしました。でも、夕方、その「嫌な女」が来たら、喜んで飛びついていった(笑)。

羽生 じゃあ、保育園に預けている母親も、子どもに嫌われちゃうとか罪悪感を持たなくて……。

中川 全然大丈夫ですよ。もっと自信を持って(笑)。

中川李枝子さんと羽生編集長
中川李枝子さんと羽生編集長

(構成/日経DUAL編集部 大谷真幸、写真/鈴木愛子)