『ぐりとぐら』や『いやいやえん』(ともに福音館書店)などの著書で知られる児童文学作家の中川李枝子さん。前回は『いやいやえん』や『ぐりとぐら』がどう生まれたかを聞きましたが、今回は子どもと本の関係について。子どもの頃に読んだ本が、その後の人生を決めることもあります。中川さんに影響を与えた本は?(聞き手は羽生祥子・日経DUAL編集長)

羽生 中川さんが保育士さんだったときは、どんな保育をしたんですか?

中川 みどり保育園にはカリキュラムがなかったんです。原っぱを越えて保育園へ行く途中に、今日は何をしようかって決める。その日のお天気や、子どもの様子を見ながら。

 保育園ではいつも岩波文庫の『グリム童話』を持っていてね。その中から子どもたちの様子に合わせて読むお話を選ぶんです。怖い話からおかしい話まで、いろいろなお話が載っているから。

羽生 その日の子どもたちの体調やムードに合わせて本を選ぶなんてステキですね!

中川 保育園時代は本当に本に助けてもらいました。絵本、お話の本、いろいろな本のおかげで首がつながったのよ(笑)。

子どもたちは本が楽しみで保育園に来た

中川 今と違ってね。当時の子どもたちは「先生が待っているから保育園に行ってやるか」という感じだったんです。もう保育園に来る前に、周りの原っぱでさんざん遊んでいるんですよ。

羽生 お勤めが早い両親だったんですか?

中川 違うのよ。子どもが勝手に家を出て、保育園が始まるまで、自由に原っぱで遊んでいるの。そういう時代でした。

 親が働いていてもいなくても関係なく、預かっていました。親も「1日中原っぱにいるよりはいいだろうから、保育園に通わせようか」という感じだった。

 私は園長の天谷保子先生から「保育以外は一切何もしなくていいから、子どもたちが全員出席する、1人の欠席もない保育をしてください」と言われていたんです。保育園に来させるためには、原っぱにはない楽しいものを見つけないといけない。それが本だったんです。原っぱには本はないから、本を読んでもらうには保育園に来るしかないでしょう(笑)。