羽生 いつ頃からそう思い始めたんですか?

中川 うちに『寡婦マルタ』という本があったんですよ。ポーランドの小説なんですが、これを8歳の頃に読んだんです。

「女性も働くべき」と教えてくれた1冊の本

 主人公はマルタという女性。いいところのお嬢さんで、修道院の寄宿女学校で花嫁修業をするんですよ。そして幸せな結婚をする。舞台がヨーロッパなので、見たこともない世界が描かれていてね。夫が奥さんのことを「小鳩ちゃん」なんて呼ぶんです(笑)。この新婚家庭の場面が好きでした。

羽生 ロマンチックな小説なんですか?

中川 赤ちゃんが生まれるまでは絵に描いたような生活をしたんだけど、途中で夫が交通事故で死んじゃうの。母と子が残されるんだけど、女学校で身につけたフランス語もピアノも人に教えるほどの腕前ではなく、働くこともできずに身を落としていくという小説なんですよ。

羽生 それを8歳の時に読んだんですか?

中川 そう(笑)。要するに、偶然手に取ったこの本は、女性の啓蒙書だったのでしょう。「自立しなくてはいけない」と女性に伝えるために書かれた本だったと思います。

 子ども時代、最初の新婚家庭の場面が好きだったんだけど、それがだんだん悲惨になっていく。この本を読んで「女も働くすべを持たないと大変なことになるんだな」と子ども心に思ったんですよ。

羽生 本の力はすごいですね。

中川 すごいのよ、本の力って。

(第3回に続く)

(構成/日経DUAL編集部 大谷真幸、写真/鈴木愛子)