仕事が合わないからすぐに辞めたり、難しい仕事を避けたり、管理職は面倒くさいからやりたくないと言ったりする人も増えていると耳にします。私に言わせれば、そういう人は自分で幸せを拒んでいる人です。幸せにならないようにならないように生きていると思えてしまう。

 20代、30代のうちは何かのプロになるために、四の五の言わず、とにかくがむしゃらに働く。お金が欲しいとか偉くなりたいという欲で働くのもいい。それで見えてくるものもあるでしょうから。

 ですが、40代になったら特に仕事というのはチームのため、お客様のため、世のため人のためという志がないとダメです。仕事以外の依るべき場所を持ち、家族との時間も大切にする。時には社会や地域のコミュニティに参加するなどして、しなやかに生きてほしいと思います。

「決してあきらめない。きっとよい日は来る」という信念を持つ

 長い人生においては病気、事故、人間関係などいつ何が起こるか分からない不測の事態の連続です。それでも私が今日まで乗り越えて来られたのは「運命を引き受けよう」という親譲りの楽観主義のおかげもありますが、やはり家族への愛と「決してあきらめない。きっとよい日は来る」という信念、そして周りの方や友人の支えがあったからです。

 けれど、何よりも大きな原動力となったのはやはり仕事です。「佐々木さん、辛いでしょう。仕事を休んで家族のことに専念したら」と言った人もいましたが、力を尽くせば仕事は応えてくれます。

仕事があったから、育児も介護もやり遂げられた

 仕事で成果を出し、ビジネスマンとして人から認められたいという強い自己実現欲求とプライドがあったからやってこられたことも間違いありません。仕事があったからやり遂げられた、というのが本当です。

 しかし人にはさらに上の欲求があります。それは自分研鑽です。自分を磨くために働くことで成長する。また、50歳後半になってやっと気づいたことがあります。世のため人のために、という思いが働く動機になるのだということです。

 私が自分の裁量で帰宅時間が決められる社長になって以来、不安が解消したのでしょうか、妻が電話で不定愁訴を訴えてくることもなくなりました。妻は快復に向かい、得意料理も再開しました。

 何事もないことが何よりの幸せという日々が続いていましたが、最近どうも神様の機嫌がよくなったのか、思いがけないプレゼントをもらっているようです。

会場となった「三茶しゃれなあど」(東京都世田谷区)
会場となった「三茶しゃれなあど」(東京都世田谷区)

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 講演終了後、会場で参加者に感想を尋ねると、「夫がうつなんです」「子どもに障がいがあって……」といった発言があった。皆口々に「何かヒントになればと思って参加したが、来てよかった」と満足気だった。主催者の世田谷区としてはこの講演会は特に、「一人でも多くの経営者」に佐々木さんの声を届けたいという思いがあったそうだ。

 次回はこの「ワーク・ライフ・バランスな1週間」のイベントを主催した世田谷区生活文化部、人権・男女共同参画担当課の山本久美子さんと大貫浩康さんのお話を紹介する。

(取材・文/砂塚美穂、撮影/花井智子)