「妻がいて、子どもたちがいて、今の僕はバランスを保っていられるんだ。これ以上、何が必要なんだ?だから、いくら年収が上がっても、出世の近道であっても、この選択がベスト。少なくとも今の僕は、1人になったらバランスを失ってダメになる」

それでもいつかやってくる「その日」

 もちろん、先のことはわからない。地方限定社員はずっと適用されるわけではない。管理職登用試験に合格すると、全国転勤可能な総合職に戻らなくてはならない。川田さん一家にも、いつかはその日がやってくるはずだ。

 「あまり先々のことは考えないようにしているんです(笑)。何が起こるかわからない先のことを考えて思い悩んだり、先手を打つために奔走するよりも、家族と一緒に今を楽しく生きていきたい。それに、あと10年もしたら娘も息子も大きくなって、『別にお父さんいなくても寂しくないよ。単身赴任してきたら?』って言われるかもしれない。そうなったら心置きなく単身赴任できるかも(笑)」

 人事制度においては進んでいるほうの今の勤務先においても、川田さんの選択はまだまだ“異端”だ。「上層部はきっと、仕事は山ほどあるんだから早く使い勝手のいい総合職に戻ってほしいと思っているでしょうね」と笑う。

 「でも、これだけ働き方が多様化している今、一時的であっても私のような選択をする男性がいてもいいんじゃないか。『ああいう生き方もあるんだ』と、下の世代に働き方の可能性を見出してもらえたらいいなと思っています」