テレビが幼児に与える影響を明らかにした前編記事「『テレビ子守』 子どもへの影響は小さい?」に引き続いて、お茶の水大学教授の菅原ますみさんが、子どもとテレビ、スマホとの付き合い方を解説する。

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。国立精神・神経センター精神保健研究所、家族・地域研究室長などを経て、現職。専門は発達心理学、子供のパーソナリティ発達、発達精神病理学
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授。国立精神・神経センター精神保健研究所、家族・地域研究室長などを経て、現職。専門は発達心理学、子供のパーソナリティ発達、発達精神病理学

小児科学会の意見も変わってきた

――前編記事でテレビ視聴の影響についてお聞きしましたが、育児書を読むと、テレビ視聴のネガティブな部分ばかり強調されていますし、報道でもあまり良いことは聞きません。

菅原ますみさん(以下菅原) 幼児のテレビ視聴がネガティブに捉えられている理由のひとつに、アメリカ小児科学会の否定的な意見が日本でも広く流布していることが理由として挙げられます。同学会は1999年に「2歳以下の子どもにはテレビを見せないこと」を推奨する意見を発表しました。

 しかし最近になって、当のアメリカ小児科学会は「今後も注意して研究の動向を見守る必要はあるが、今のところメディア利用時間と子供の発達との因果関係については結論が出ていない」という、否定でも肯定でもない立場を取るようになりました。

 これには、前編記事で述べたような科学的な分析方法の進歩が関係しています。昔は科学的根拠が薄い主張でも通りましたが、今は科学的な分析なしに「テレビは悪だ」と結論を出すことは時期尚早だと考えられています。

「子どもに良いこと」に頑張りすぎないでいい

――テレビはさほど問題視する必要はないのですね。

菅原 発達心理学の研究では、テレビ視聴よりも深刻な問題に注目しています。それは、親の虐待や夫婦間のドメスティックバイオレンスにより、親の養育機能が落ちることです。

 子どもが健康的に成長するためには、家庭が子どもにとって安心できる場所であることが基盤です。ですが、上記のような理由で親の養育機能が落ちると、その基盤が揺らいでしまいます。

 テレビが悪の象徴のようになっていますが、まずは家族そのものの基盤を見直すことが必要です。

 テレビの視聴についていえば、健康的な家庭であれば、テレビを長時間見ていても問題はありません。しかもそのような家庭では、コミュニケーションのツールとしてテレビを上手に使っていることも多いのです。

――私も含めて親は「子どもには良いことをしなければ」と頑張りすぎてしまうことも多いと思います。

菅原 そう思うことはもちろん大事ですが、忙しいときに無理をすることはありません。

 例えば、今日は1日教育的なコミュニケーションが十分にできたから、明日は子どもを自由に遊ばせようとか、1週間を振り返ってバランスよくコミュンケーションが取れていれば大丈夫です。