菅原 例えば、行動に問題があると診断された子どもがテレビを長時間視聴しているケースがあったとします。この現象だけを見ると、「テレビの長時間視聴が原因なのでは」と言いたくなります。

 ですが、行動に問題がある子どもは、母親に「テレビを見ていなさい」と言われる傾向が強いだけなのかもしれません。

 「テレビの長時間視聴」と「子どもの問題行動」という2つの現象があったとしても、その原因と結果を科学的に確かめるのは、実は非常に難しいのです。

 ただ近年、統計学の進歩とコンピューターの解析技術の発達に伴い、より正確な因果関係を抽出することが可能になりました。この「影響研究」と呼ばれる方法論は1990年代にようやく確立され、大規模な研究では2000年代に入ってから導入されるようになりました。

――なるほど。

菅原 影響研究は、海外では国家規模で行われています。

 イギリスでは「ミレニアムコーホートスタディ」といって、2000〜2001年に生まれた約1万9000人の子どもたちを対象に、メディアだけでなく、親との関わりや学校の影響など、子どもの成長に何が影響しているかをさまざまな視点から毎年調査しています。

 私が参加する“子どもに良い放送”プロジェクトも、同じ時期から始まった、約1200世帯が参加する大規模な影響研究です。

 調査では、調査に参加する世帯に、1週間のテレビ視聴日誌をつけてもらいます。ただ漠然と1日の視聴時間を調べるのではなく、1日の視聴量を15分刻みで24時間分記録してもらいます。

 さらに、子どもが起きているときにいる部屋でテレビがついているかどうか、集中して見ているのか、他のことをしながら見ているのか、あるいはバックグラウンドテレビ(編集部注:子どもが見ていないのにテレビがついている状態)なのか、どのような番組を見ているのか、などの視聴行動も細かく記録していきます。

――ずいぶんと詳細なデータをとるのですね。

菅原 テレビ視聴の影響を正確に分析するためには、できるだけ詳細なデータが必要だと考えています。

 視聴行動のデータだけではありません。調査では、その子どもの注意欠陥多動傾向や問題行動の有無、言葉の発達(語彙数の豊富さ)など、子どもの発達も測定しています。

視聴時間の長さは、子どもの発達には影響なし?

――近年の影響研究では、どんなことが分かったのでしょうか。

菅原 国内、海外ともに、「テレビ番組の内容」と「視聴時間」という2つの観点から様々な研究が行われており、そこで分かってきたことはいくつかあります。