ヨメの対応に文句をつけようというのではない。いや、もう少しわたしのことをホメるべきだとは思う。そうすればもっともっと自発的な協力を引き出せるのに。そのあたり「ダンナ心が分かってねえなあ」と思うところもないわけではないのだが、今のところは「そんなの当たり前じゃない!」的な態度を取るわけではないし、何より、子育てという作業自体が割と楽しい。よって、そんなに、文句はない。

息子よ、どうしてそれほどまでに冷徹なのだ、お前は

 どうにも我慢が……というか、いささか納得がいかないのは、息子・虎蔵(仮)の態度についてである。

 毎日定時の出勤をなさっているお父さん方であれば、自分に言い聞かせることもできるだろう。

 (母親のほうが子どもと一緒にいる時間が俺よりも圧倒的に長いんだから、仕方ねえよな)

 わたしは、フリーのライターである。取材をしている時以外は、基本、家にいる。外出しなければビタ一文稼ぐことのできないフリー・アナウンサーのヨメよりも、家にいる時間は長いかもしれない。

 なのに、明らかにママ好きってのはどういうことだ? あ?

 わたしが出かける時、息子・虎蔵(仮)の様子にさしたる変化は見られない。

「じゃあ、お父さん行ってくるからねー」
「……」
「明日まで帰ってこないからねー」
「……」
「ばいばーい」
「……」

 ところが、である。先日、ヨメが朝の情報番組に出演するため、早朝こっそりとベッドを抜け出したことがあった。絶対に起こさないように、細心の注意を払って出て行こうとしたその瞬間──。

「ギャーーーーーッ!」

 絶叫が響きわたった。わたしがヨーロッパ・サッカー中継のために明け方ベッドを抜け出してもピクリともしないくせに、ヨメが姿を消そうとするや否や奴は絶叫した。泣いて泣いて泣き叫んで、それは、わたしが手練手管の限りを尽くしても止まらなかった。普段は極めて有効なタテ抱っこも、どれほど泣いていても一発で笑顔に変えることができる秘技・肩車も、最後の手段“ミルク飲ませ”も、まるで効かなかった。