この特性に着目した、褒めるための覆面調査会社というものが実在します。飲食店に客として潜入し、後日その店の従業員を褒めた報告書にしてフィードバックしたり、社内で部下や同僚の褒め方を指導したりすることが業務内容です。

 この調査会社の社長は、病人を作るような会社が存在してはいけないとの志から、このユニークな会社を創業しました。今では定着率の低さに悩む大小さまざまな会社から依頼があるそうです。

 社員の意欲を高めるために報奨金やボーナスアップなど経済的に報いることが難しくなった時代にあって、褒めることで意欲を高め、さらに働く喜びのある会社をつくっていくことは、とても素敵なことだと思います。

褒められることは生きる力になる

 逆の例を見てみましょう。私は、引きこもりから自らの力を振り絞って脱出した高校生を褒めたことがありました。

 彼の母親はしかし、「褒められたことなんてないから戸惑ってるぅ」と小馬鹿にしたように笑い、祖父は決意も新たに入学した通信制高校の保証人になることさえ拒みました。彼はやっと始めたばかりのアルバイトにも遅刻するようになり、それも辞めると、再び引きこもってしまったのです。

 くわしい事情まではわかりませんが、なぜ、立ち直ろうとしている息子や孫を褒めそやし、応援し、寄り添い、遅刻しないように支えてあげなかったのかと、残念でなりません。

 乳幼児から大人まで、褒められることは生きる力になるはずです。特に自分づくり真っただ中の青少年にとっては大きな力になります。ましてや、引きこもりというつまずきから独力で立ち直ろうとしている青年です。自覚はなくとも、どれだけ「褒め言葉」を欲していたことでしょうか。

 褒められたいのは妻だって同じです。乳幼児を子育て中のある主婦が褒め言葉に救われたと語っていました。

 何でも夫の仕事が急に忙しくなり、夫婦の時間がなくなったそうです。交わすのは機械的な言葉だけという日々の中で、彼女は『小学校発! 一人ひとりが輝くほめ言葉のシャワー』という本に出会いました。その中の「いつも一生懸命やってるよね」の言葉に涙が止まらず、このような言葉を言われたい、言ってあげたいと切に思ったのだそうです。(NHKクローズアップ現代「ほめる力」より2010年2月)

 時間の余裕がないと、夫婦の会話は会話というより「事務連絡」になりがちです。

 わが家では、喧嘩をするのは決まってお互いが忙しい時です。だからちょっとすれ違いが多い日々が続いた時は、「のんちゃん(夫のことです……怒らずに甘えるのも作戦のうち)が足りない」とSOSを出して、意識的に時間をつくるようにしています。日常に流されずに、意識して、努力して会話の時間を持ち、褒め合うことが大切なのではないでしょうか。

<『脱・不機嫌な女』(著・武部純子/柏書房)から転載>

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