NHKの朝の情報番組「あさイチ」で「産後クライシス」が大きな話題になり、番組スタッフが書いた書籍も売れています。その書籍によれば「産後クライシス」とは「出産後に夫婦の愛情が急速に冷え込む現象」とのことです。言葉自体は番組スタッフが考えた造語ですが、産後の夫婦にこのような現象が起こることはもともと古今東西で知られています。

なんだかおかしいぞ、産後クライシス議論

 子どもが生まれ、夫婦がそれぞれに「親」という新しいOSをインストールしなければいけないわけですから、バグが生じるのは当然です。そういう現象に明確な名前をつけて、周知を図り、これから出産する夫婦が心構えをつくったり、すでに似たような状況にある夫婦が、現状を納得して冷静さを取り戻したりしてもらうことはいいことだと思っていました。いや、要するに、番組をやっていることは知っていましたけど、全部は見ていないし、書籍も最初は読んでいなかったのです。

 でも、ネット上で「産後クライシス」に関するコメントなどを見ていて「なんだかおかしいぞ」と思うようになりました。どうやら「産後クライシスは、育児や家事をしない夫のせい」ということになっているように感じたからです。書籍を購入して読んでみると、やっぱりそうでした。根拠となるデータの読み取り方も恣意的だし、そこからの考察もかなり偏っていると感じました。

 私が感じた違和感は、例えば次のようなことです。

■出産後の母の心身両面に起こる大きな変化に触れられていない
 「産後クライシス」は、ホルモンバランス、体調不良、子育てに対する不安、ライフスタイルの変化など、心身両面でのさまざまな原因によって引き起こされるものです。特に母乳の分泌を促進するプロラクチンというホルモンには、「敵対的感情」を煽る効果があることが知られています。しかし現状の「産後クライシス」の議論の中では、それらの前提にはほとんど触れられていません。