虎蔵(仮)からすると、いつも通りに泣いているだけだったのだろう。だが、一人でそれに対処しなければならないわたしは、いつもと同じようには全く受け止められなかった。途方に暮れて、うろたえて、しかもそれを自分一人で処理しなければならなくなったわたしの中からは、自分でもびっくりするぐらい凶暴な衝動が込み上げてきたのである。
幼児虐待は自分に無縁の話だと思っていた……
ビビった。心底、自分で自分にビビった。もしこれが1日24時間、365日続くとしたら、俺はどうなってしまうのだろう。「スポーツライター、虐待で逮捕!」とかになってしまうんではなかろうか。というか、虐待とかって絶対に自分には無縁の話だと思っていたのだが、こんなにもすぐ近くに、ダークゾーンへの落とし穴があったのか──。
そんなわたしを救ってくれたのは、何気なく眺めていたテレビの情報番組。
「ネコの赤ちゃんはお母さんネコに首をくわえてもらうと、安心しきってる脳波が流れる。人間の場合は、縦向きに抱っこして揺らしてもらうと、同じような脳波が出る」
泣きじゃくる虎蔵(仮)に早速試したところ、びっくりするほど効果があった。
対策が分かれば余裕も出てくる。虎蔵(仮)が虐待されることも、わたしが犯罪者になることも、無事に避けることができた。
紙一重、だったと思う。