ここからが本題である。

 阪神の選手はおしなべて神なわたしだが、そんな中でも特別な選手が一人いて、その御方はあまりにも恐れ多すぎて呼び捨てすることができないほどの存在となっている。

 ランディ・バース様である。

 未だ“史上最強の助っ人”との呼び名を欲しいままにするバース様の実績については、あらためて触れる必要もあるまい。

 わたしが問題としたいのは、阪神退団に至るまでの騒動について、である。

野球より長男の看病を優先したバース様を、当時のわたしは理解できなかった

 ご存じのない方のために簡単に説明しておくと、88年、バース様の長男ザクリー君が水頭症という病気にかかってしまった。彼はその対応を巡って球団と対立し、結果的にシーズン途中で解雇されてしまう。

 問題なのは、あの時、わたしがどう感じたていたか、ということである。

 「たかだか子どもの病気のために試合休んでんじゃねーよ」

 間違いない。大学生だったわたしは確実にそう感じていた。アメリカ人は家族を大切にするもの、という知識はあったから、リベラルぶって「球団の対応、なってねーよな」とか口にしつつ、腹の底では家族のために仕事を放り出す男に対する反発、軽蔑、いろんなネガティブな感情があった。

 あれは、本当にわたしだったのだろうか。