「数値目標」を教育現場に求める傾向がある。私自身、民間人校長として期待されている点でもある。数値目標を立て、目標達成のための対策を立てる。大阪市の小中学校では、今年「運営に関する計画」という書類を全校長が出し、保護者や地域の人たちが学校の運営に参加する「学校協議会」の評価を受けた。

 正答率、アンケートで「算数が好きですか」に「はい」と答えた児童の割合、授業アンケートの結果……さまざまな数値を記入しながら、仮に結果を出したところで意味を持たない数字に悩まされる。

 小規模校である敷津小学校では、1人の欠席や転出入で数値が大きく左右される。また、学力が高い小学校のデータと通塾率の関係は無視される。中学受験率の高いエリアでは、基本的に数値が高い。それを無条件に「学校の授業力」と考えるのはおかしい。

 そして、最も悩ましいのが「数値化できない教育効果」だ。

 授業中、じっと座って話を聞けなかった子が落ち着いて学習できるようになった。コミュニケーションに自信の無かった子が、友だちと協力できるようになった。発表のできなかった子が、堂々と自分の意見が言えるようになった……。

 小学校に来てから、1人ひとりの成長に驚かされ、小学校の教育力に感動する場面がたくさんあった。職員室には、「あの子がこんなことができた」「こんな場面を見た」という会話が飛び交う。それを校長席で聞いているのが、大好きだ。

 2013年の夏、私は初の「自然体験学習」に5、6年生を連れて出かけた。2泊3日の宿泊学習で、滋賀県高島市の「びわ湖青少年の家」に行く。5年生だけで行くケースが多いが、敷津小学校は単学級のため2学年で出向く。この3日間、私はまさに「数値化できない教育効果」を見せつけられた。

ゲームナシ、携帯ナシ、TVナシ。そこにあるのは自然と友だち

ちょっと時間が空いたので、思いつきで朝の散歩に出かけた。自然と友だちがあれば、子ども達は飽きもせず遊ぶ。自然に囲まれた宿泊施設のいいところだ
ちょっと時間が空いたので、思いつきで朝の散歩に出かけた。自然と友だちがあれば、子ども達は飽きもせず遊ぶ。自然に囲まれた宿泊施設のいいところだ

 小学校から、地下鉄とJRを乗り継いで約2時間。少人数校は、バスを出せない。公共交通機関を乗り継いで行ける、自然体験施設は貴重だ。大荷物をかついで近江高島駅から20分ほど。おだやかな湖面、入道雲、青空。視界が一気に開け、子ども達のテンションが上がる。「びわ湖青少年の家」に到着した。さっそく、水着に着替えて浜に飛びこむ。海と違って、泳がせるには比較的安全だ。

 ゴーグルを着けて魚を探し、藻を拾って投げ合う。意外に大胆な子どもの姿を、安全管理をしながら見守る。宿舎に入り、5、6年の混合班で部屋割りをした。修学旅行は行程をこなすのに慌ただしかったが、ここなら少し腰を据えた「生活」を体験できる。

 指示は一回しかしない。自分たちで時間管理をし、声を掛け合い、5分前行動をする。学校では、チャイムで着席できないことが課題だったのに、彼らは5分前行動をほぼパーフェクトにやってのけた。

 単学級で1年生から過ごして来た彼らは、クラスの中の力関係が固定してしまっている。ところが、異学年チームでは今までおとなしかった子がリーダーシップを発揮し始めた。勉強は苦手だが料理が好きな男の子は、飯ごう炊さんでテキパキと動く。集団行動が苦手な子を、班のみんながサポートする。自然体験の帰り道に気づいた。彼の呼び名が、名字の呼び捨てから「~ちゃん」と愛称に変わっていた。

 放課後に校区を回ると、子どもたちは公園で携帯通信ゲームを付き合わせてたむろしている。ここにはゲームもテレビもない。それでも、すき間時間を惜しんで琵琶湖で石投げ競争を楽しみ、走り回っていた。

「自然環境」×「プロの力」で子どもの力が爆発する

 ここまでは、どんな宿泊行事でも見られることかもしれない。「びわ湖青少年の家」では、加えて湖上プログラムとスタッフの指導力にうならされた。