湖上プログラムは、「カッター漕艇(そうてい)」という団体でこぐボート体験と、自分たちでいかだを組み立てて乗る「いかだ作り体験」の2つを楽しんだ。中でもカッター漕艇は、チーム力が要求される。全員で力と気持ちを合わせて重いオールを漕ぎ、運が良ければ4キロ先の白髭神社の鳥居をくぐって帰ってくる。

 一緒にスタートした小学校の校長先生と、互いの学校を応援しつつ救護用の船から見守る。小規模校の悩みは、目が届き過ぎるがゆえに子どもたちが甘えがちなところだ。発表の声や挨拶の声もどちらかと言えば小さい。その彼らのボートから、「そーれ!いーっちに!いーっちにっ!」と必死の大声が聞こえる。鳥居は恐ろしく遠い。1時間経過した。まだ、彼らの声は衰えない。

 後で、乗り込んだ教師が教えてくれた。「船長の江島さんの指導力がとにかくすごかった。子どもたちを励まし、笑わせ、リズムを作って盛り上げた。教師としても本当に勉強になった」。

船長を担当してくれた江島徹(えじま・とおる)さん。3時間近く、この狭い船の中でチームワークを固め、気持ちを切らさないよう盛り上げてくれた。諦めない子ども達のタフさにも、驚かされた
船長を担当してくれた江島徹(えじま・とおる)さん。3時間近く、この狭い船の中でチームワークを固め、気持ちを切らさないよう盛り上げてくれた。諦めない子ども達のタフさにも、驚かされた

 私もスタッフの方々の力を随所に感じた。船を下りた後、「あの子は態度で損はしていますが、よく気がつくし見て覚える力を持っていますね」と個々の児童の特性までつかんで、船の中で生かしてくれていた。

 天候や子どもたちの体力によっては、通れない白髭神社の鳥居。一緒にスタートした小学校が、先に越えた。いよいよ、敷津小学校の船がやってくる。子ども達は顔を真っ赤にして漕ぎ、声を出し、鳥居を越えるための「櫂(かい)立て!」の指示を聞き逃さないように集中している。

 重い櫂を、指示から6秒以内に立てなければ鳥居にぶつかる。

 「櫂立て!」

 力を振り絞って、隣の子と力を合わせて櫂を持ち上げる。1本、遅れたところを船長が飛びついて立ててくれた。くぐった!

 こぎ始めて約2時間。暑かったが、湖上を吹く風は涼しい。櫂を下ろして健闘をたたえ合う、船からの歓声が聞こえた。その時も泣きそうになったが、そこから2キロ、トータル6キロの距離を2時間45分で漕ぎきった姿に泣かされた。私はこれまで、君たちの何を理解したというのだろう。この自然と、体験プログラムと、優秀な指導者が一気に引き出した子どもの力。

 学校現場は基本的に守りなので、同じ環境があってもこれだけのプログラムにチャレンジできない。教職員が主導であれば、水難事故や熱中症、ありとあらゆる不安をぬぐえず、無難なところで落ち着いていただろう。毎日、この土地の自然に向き合い、たくさんの子ども達と接してきたスタッフだからこそ、安全の中でギリギリいっぱいまでのチャレンジをさせられる。

 子どもたちが教えてくれた。

 「君たちは『小さな学校、大きな家族 チーム敷津』なんやろ、力を合わせてがんばれ!って船長が言っててん。敷津小のこと、知ってたで!」

 学校ホームページで得た情報を踏まえて、声をかけてくれた気配りにも感謝した。

廃止に揺れる「大阪市立びわ湖青少年の家」

 子どもたちは、まさに家族のような一体感で戻ってきた。特に、2年続けて「びわ湖青少年の家」に来て、昨年は鳥居越えができなかった6年生は達成感に満ちあふれていた。「しんどかった」より先に「楽しかった!」が口々に聞こえる。自慢げに「見て!」と手のひらを差し出す。できた豆をなでながら、「よくがんばったなぁ!」としか言葉が出なかった。私も乗りたかった。