曇っていた私の気持ちは、この1年で大きく変わることになる。

仕事、育児、家事。私1人では無理

 当たり前だが、育児・家事の半分を担っていた夫が離脱した結果、その9割は私がやることになった。大学生が共働き家庭に出入りし、仕事と育児の両立を学ぶというインターン制度を実施するスリールの大学生や実家の助けを借りても、上司や同僚の配慮があっても、それまでの4年間に比べると忙しさが桁外れの毎日。しかも、家族はバラバラ。中途半端な自分への苛立ちは増えるばかりだった。

 大好きな仕事だし、会社への感謝の気持ちも強いけれど、だからこそ、この状況で続けたら私も家族も会社も皆が不幸になる気がする。私のキャリアは夫との分担ありきなのだから、夫の赴任先で(また夫と育児家事を分担しながら)働いた方が健全なのかもしれない。少しずつ、心が決まっていったのはこの頃だ。

 もうひとつ、大きかったのは夫の理解の深さだった。私に「大好きな会社でのキャリアを中断させて申し訳ない」「語学スキルを上げてキャリアアップできる可能性は?」「あと30年、どんな働き方をしたいか」と質問してくれ、とにかくよく話をした。

 起業するイメージは今もまだないのだが、「もし新しい事業を始めるならば、その資金は出す」とまで言ってくれた。資金以上に嬉しかったのは、その心意気。夫の理解がなかったら同行していないと今でも思う。そして、予定よりは遅れたものの、私も会社を離れて日本を出るという決断に至った。

海外赴任に同行しない妻子が増えている?

 この決断について、同年代の共働き夫婦からの反響はとてつもなく大きかった。今の時代、海外赴任の辞令は他人事じゃない。「わが家も近いうちに海外赴任になるかもしれない」。そんな言葉をたくさん聞いた。そのタイミングが来たとき、仕事を続けるのか、辞めて同行するのか、みな胸の内に様々な想いを秘めていたらしい。

 ここに、海外進出企業向けのメンタルヘルスマネジメント会社が実施したアンケートがある。東京23区内に住む20~50代女性320人を対象とした「海外赴任への帯同に対する女性の本音調査」だ。これによると、夫が海外赴任になった場合、「帯同しない」と答えた女性は55%と過半数を超えている。さらに、その理由を「自分の仕事の都合」と答えた人は8割近くに達しており、その半分以上は正社員としての職を得ていると回答していた。

 この結果は、正社員の女性が増えたこと、出産後も働き続けられる環境が整ってきたことと関係しているのだろう。もちろん、このアンケートは50代も含んでいるため、日経DUAL読者の感覚とは少し違う部分もあると思うが、(子どもが大きくなるにつれ、単身赴任は増える)これが最近の傾向なのは間違いない。

 結婚後も多くの女性が働いている、しかも辞めたくないほど有意義な仕事に就いているという事実は喜ばしいこと。優秀な女性は多いから、企業が手放したくないというのもよく分かる。でも一方で、このデータからは「今の会社を辞めたら再就職先がない」という事情も垣間見える気がした。子どもがいると再就職できないから仕方なく日本に残る…という選択をしているとしたら、なんだかやるせない。

退社して夫の海外赴任に同行しつつも、「働く」を続けた母親たち

 もちろん、夫の海外赴任に同行するために妻が仕事を辞めたという例は最近でも多い。共働き家庭が増加しているという国内の動向にもかかわらず、夫の会社の規定により妻が現地で働くことを禁止されているケースも少なくない。本当は仕事をしたいのに、もう働けるわけがないと諦めている人もいる。ただ、その一方で、夫の海外赴任後も仕事をする「働く母」の話も度々聞くようになってきた。