「余計なことしないで」と怒られる

 私の息子が生まれた11年前、男性用のトイレには、親が用を足している間に赤ちゃんを座らせておくことのできるベビーホルダーや、オムツ交換台はほとんどありませんでした。

 ベビーカーがないときは、仕方なく、息子を肩車したまま用を足したこともあります。片手で息子を抱っこしたまま、片手でオムツを替えるという曲芸も身につけました。

 いやぁ、この10年で時代は変わったものです。ベビーカーにも優しい街づくりが進み、トイレにも上記の設備が備え付けられるようになりました。それと共にイクメンという言葉が広まり、男性も育児に参加することが「当たり前」とみなされるようになりました。

 しかし、男性が積極的に育児へ参加することは、本当にいいことづくめなのでしょうか。

 世の中的には、「男性が育児をすることは、両手を挙げて喜ばしきこと」という風潮がありますが、私が運営するサイト「パパの悩み相談横丁」には、そうともいえない男性からの相談が日々、舞い込んできます。

『育児や家事を頑張ろうと思っているのに、「余計なことをしないで」と妻からウザがられる』

『「あなたが子どもに甘すぎるから、私のしつけが台無しになってしまう」と妻から怒られる』

 などという相談です。

 せっかくのイクメンが、なぜか奥さんから煙たがられてしまうのです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。会社経営になぞらえて解説してみましょう。

 ワンマン会社のトップである社長は大変です。何から何まで自分の責任で判断しなければなりません。自分の判断に社員の生活がかかっています。常に大きなプレッシャーを抱えているのです。

 そんなある日、「共に御社を良くしていきたい」という人物が現れました。ワンマン社長は「助かった!」とばかりに、彼を副社長に抜擢します。

 最初は頼りになる副社長だと思いました。しかし次第に経営方針の違いが露呈し、衝突することも増えました。「こんなことなら一人でやっているほうがラクだった……」と元ワンマン社長は思うのでした。

 それと同じことが、イクメン夫婦の間でも起こりうるのです。

 夫が「子育てはキミに任せた」ということは、悪くいえば丸投げですが、よく考えてみれば、「キミの子育てを信頼している」という意味でもあります。そう言われれば奥さんだって悪い気はしないはずです。

 しかし、子育ての楽しさに目覚めた夫が「オレ流育児」を始め、妻の聖域を脅かすとしたら、妻からするとうっとうしくてしょうがないわけです。一方、夫からしてみれば「せっかくやる気になったのに、どうしてありがたがってもらえないんだ?」ということになります。

 夫がイクメンになることで夫婦間の緊張が高まるということがあるのです。これを「イクメン夫婦の皮肉な葛藤」と、私は呼んでいます。

自分を主語にして、傷つく気持ちを伝える