「編集長、ちょっとお話が……」。

沈んだ表情、消え入りそうな声。瞬間思った。悪い報告だなと。おそらく記事で間違いがあったのだろう。ミスの度合いによっては、一緒にお詫びにいかなければいけないな。そんなことを瞬時に考えた。

 今から5年前、私は新聞社から出向し、月刊誌の編集長になった。初めての管理職、2カ月目のことだった。

 目の前で頭を下げていた女性部員Hさんの「ちょっとお話が」の中身は、予想外のものだった。「2人目の子供を妊娠したんです」。

 なんだ、記事の間違いではないのか。ほっとした私は「ああ、そうなの。そりゃ良かったね。おめでとう」。それで話は終わったと思っていた。でもHさんは動かない。どうしたのかなと思っていたら、「8月から産休に入りたいのです」。そこでようやく気がついた。1人欠員になるのかと。

 管理職1年生の私は、妊娠の話を聞いてすぐに、そこまで考えが回らなかった。産休期間は長い。産んでからも復帰まで時間がかかる。その間の人員補充はもちろんない。Hさんが申し訳なさそうにやってきた理由も、そこにあった。

 Hさんは第1子を産んで、育児休暇から復帰して1年ちょっとだったが、私はそのこともよく知らなかった。上司に話したら、開口一番「え? また妊娠かよ」。その口調は厳しかった。「もちろん補充はないからな」。

 当時の月刊誌編集部は10数人の所帯。男女比率はほぼ半々で、子育て中の女性もいた。男性部員は子持ちが大半で、独身は1人。幸いにも、Hさんの第2子懐妊のニュースを部員たちは好意的に受け止めた。子育て中の女性はもちろん、独身女性も「いずれは私も」と思ったのか、当面の負担増に嫌な顔をしなかった。私は自分の妻が2人の子育てをしながら働いていたため、違和感はなく、他の子持ち男性部員からも不満の声は出なかった。

 後からHさんから聞いた話だが、「妊娠の報告をしたとき、それは良かったね、と言われてびっくりしました。それは困ったなあ、という展開を予想していたので」。