羽生 厚生労働省は、男性の育休取得率を現行の1.89%から2017年度には10%に、2020年度には13%に引き上げるという数値目標を掲げていますが、それでも現場では男性の育休は取りにくい雰囲気がありますよね。

渥美 それはなぜかというと、上司の多くが専業主婦を持つ片働き男性だからです。「片働き」の男性上司にとって「育休を取りたい」という共働き男性の価値観は、理解できないのだと思います。

羽生 分かります。片働き男性には、共働き家庭の様子が具体的にイメージできないんでしょうね。それでもワーキングマザーはまだいいんです。彼らにとって私たちは「宇宙人」なので「大変だね。頑張ってね」と割と優しく接してもらえるけれど、これが男性だと「男のくせに、何を言ってるんだ」となってしまう。かわいそうですよ。

渥美 そのとおりです。でもね、分からずやの上司にいつまでも遠慮してたら、新しいことなんて何もできません。上司に理解がないから育休が取れないとかワーク・ライフ・バランスが取れないという男性は多いけれど、育休を取りたいと思っているならどこかで見切りを付けて取ってしまえばいいと思うんです。仮に男性が育休を取得することで、一時的にネガティブ評価をされたとしても、「今は雌伏の時だ」と思ってやり過ごせばいい。

 これまではイクメンや男性の育休取得者はマイノリティーでしたが、今後の社会ではイクメンはどんどん増えていきます。やがて、「イクメンでなければ部下のマネジメントができない」という時代もやってくると思うんですね。

羽生 同感です。今や女子大生の9割が「ワーママになりたい」と言っている調査もあります。共働きに理解や提案のない上司はこれからどんどん管理職として評価が下がるでしょうね。

渥美 今の日本の現状は40年前のスウェーデンにとても似ているのですが、スウェーデンでは現在、イクメン第一世代が経営者層になっています。7年前に男性の育休取得者と非取得者の昇進について調査したところ、役員層では育休取得者が9割、平社員層では7割という結果でした。つまり、育休取得者の方が昇進している確率が高かったのです。

 というのも、イクメンにはさまざまなメリットがあるからです。僕自身も育休を取ってしみじみ感じたことなのですが、仕事人、家庭人、地域人とさまざまな顔を持つことによって、広がりが出ます。家庭人として子育てや家事をしている人は生活者の視点を持てるし、子育てを通じてのネットワークも広がるためいろいろな情報も入るようになります。

羽生 「子どもをお迎えに行かなきゃいけない」といった時間的な制約がある分、仕事の効率は劇的に高まるし、タイムマネジメント力も付きますよね。実際にDUAL編集部も全員子育て中の男女ですが、極めて仕事が速く、みな優秀ですよ。

渥美 ワーキングマザーなどの時間的な制約のある社員の生産性を調べてみると、時間当たりの生産性は40%も高まっています。普通の社員の8時間分の仕事を、制約のある社員は6時間で終わらせているんです。しかも、一度高まった生産性は、低くなることはありません。

 さらにさまざまな体験を通して人間的な幅が増すため、部下のマネジメントにもその力を発揮できるようになります。ライフからさまざまな気付きを得て、それらをワークに還元できるようになるのです。企業はその点をもっと積極的に評価した方がいい。

 また、これから共働き家庭がどんどん増えていく中で、旧態依然とした片働き男性の価値観は通用しなくなると思っています。少なくとも部下マネジメントで失敗するケースが激増するでしょう。部下世代の価値観からかけ離れてしまった結果、彼らの生活スタイルや仕事スタイルが全く理解できず、モチベーションを下げ続けるマネジメントしかできないという問題が生じると思うんですね。

羽生 今の企業は、「子育て女性社員の取り扱い方」と言うように、女性社員の管理ばかりに注目していますが「子育て男性社員」のマネジメントが企業の課題になる日は近いと思います。

渥美 僕の場合は、昔から子どもが大好きだったから育休を取っただけなんです。もちろん旧来型の価値観の上司とぶつかることもあったけれど、上司に評価されるよりも妻や子どもに評価されたほうがいいという感覚でやってきました。仮に昇進や昇格をしなくたって、子どもが大きくなったとき「お父さんみたいに子育ても仕事も両方やるパパになれたらいいな」と言ってもらえたら、それが一番うれしいですしね。

羽生 それって、まさにデュアラーの価値観ですよね。そんなふうに言えるパパって、本当にかっこいいです。(次回に続く)

(構成/広田遥 撮影/花井智子)