私の場合、営業活動においても、リレーションが構築できて取引が安定した顧客を後輩や部下にどんどん引き継ぎました。そうやって管理顧客数を減らし、新規の顧客開拓や難易度の高い案件に時間を割くようにしたのです。

 「効率化」という観点では、このやり方に矛盾を感じる人もいるかもしれません。普通なら、関係が構築できている顧客を多く保持し、ルーティンで回せば、それほど手間をかけずに売り上げにつなげることができるからです。確かにその方が負担は軽いのですが、私は「より価値の高い仕事をすることで自分を成長させること」「会社に貢献して社内での存在価値を高めること」を優先させたいと考えました。

 若いメンバーに顧客を任せれば、そのメンバーにとっても新たな成長機会を得ることになります。自分だけのメリットを追求するより、組織の「全体最適」を考えて動くことで、育児期間中も、育児期間を終えた後も、引き続き会社にとって「なくてはならない人材」として自律的に仕事ができると思ったのです。

 このように限られた時間の配分を工夫した結果、私が大切にしたいこと、つまり、人との直接対話に時間をかけることができるようになりました。コミュニケーションがより広く、深くなったことで、人脈も広がり、業績をアップさせることにもつながりました。

 一方、家に帰ったら、子どもと接する時間を少しでも長く取りたいと考え、特に面倒で時間がかかる家事は、「家事代行サービス」などを活用したり、食器洗い乾燥機などの全自動家電に任せるようにしました。

子どもと接しているときは100%「母」の顔になる

「ワーママ」「妻」「母」、そして一時期は「マネジャー」と、いくつもの顔を持ってきましたが、「ビジネス」と「母」の顔が、同時に表れることはありません。子どもと接しているときは100%「母」の顔、仕事をしているときは100%「ビジネスパーソン」の顔に切り替えます。でも、以前は仕事と家庭生活をうまく切り替えることができず、悩んだこともありました。

 家に帰って子どもと夕食を食べていても、仕事の電話がかかってくると放っておけずつい出てしまう。子どもが自分を呼んでいる声も無視して、つい長く話し込んでしまう。電話を切った後も、その用件について翌朝どう対処するかを考え、子どもから話し掛けられても上の空に…。

 さらに当時は、保育園へのお迎えに行くため、早い時間に退社していたので、子どもが寝た後、22時ごろから深夜まで残りの仕事を片づけていました。寝かしつけで絵本を読んでいたのですが、子どもが寝ないと気が急いてしまう。そんな私のイライラを子どもたちは敏感に感じ取って情緒が不安定になってしまうのか、いつまでも寝てくれないという悪循環に陥りました。

 そこであるときから、家に帰ったら仕事の携帯電話をオフにすることにしました。「19時以降、電話はつながりません」と会社のメンバーや顧客にもあらかじめ伝えておき、メールで用件を送ったり、アシスタントに伝言してもらったりしました。こうして今では、家に帰ったら仕事はすべて忘れ、子どもと接することに100%集中できるようになっています。夜中に仕事をするのもやめ、22時には子どもと一緒に就寝。「今日はもう寝るだけ」と思うと、私も子どももリラックスした気分で眠りにつけるのです。

 その代わり、朝は3時に起きます(笑)。睡眠時間は5時間取っているので、それほど辛くはないのです。家事を片づけ、4時頃から仕事を開始。この時間を使って、企画書や講演資料を作成したり、メールの返信・送信を行ったりします。早朝は頭がさえていますし、邪魔が入らないので100%考え事に集中でき、とてもはかどります。

 そのあと、子どもを保育園に送って会社に着いたら、「仕事モード」にフルチェンジ。子どものことで気にかかることがあっても、あえて考えない。徹底的に意識を仕事に集中させます。仕事や作業をしながら、頭の隅でほかのことを考えるのは、効率がいいように見えて、実は非効率になっていることも多いと感じます。その時々で目の前の仕事、目の前にいる人に100%集中する。それによって能率が上がり、気持ちのめりはりも生まれ、充実感につながってくるのです。

(ライター/青木典子、撮影/鈴木愛子)

毎朝3時に起きてリビングで仕事をする。子どもと一緒に22時に寝ているので、睡眠時間は十分。
毎朝3時に起きてリビングで仕事をする。子どもと一緒に22時に寝ているので、睡眠時間は十分。