妻「この日、仕事入ったから」
夫「え? もう俺、取材組んじゃった」
妻「え~! 困る!」
夫「どっちかが断って家にいるしかないだろう」
妻「どっち優先させんのよ?」
夫「ギャラが高い方」
妻「……」

 赤ちゃんの前でなんてえげつない会話。私、八塩圭子(フリーアナウンサー)、夫、金子達仁(スポーツライター)という自由業夫婦のところに赤子が来たら、こんな会話が繰り広げられる家になった。

 今までは、それぞれが散り散りに仕事に行き、好き勝手に飲み食いに行き、お互いの予定を把握していなくてもなんの不自由もなかった。ところが、子どもが生まれてからは、当たり前だが、常にどちらかが子どもの面倒を見るために家にいなければならない。私が仕事を休んでいた生後4カ月ごろまでは問題なかったが、徐々に仕事をし始めてからは2人のスケジュールの擦り合わせが一大テーマに浮上した。

夫に「お伺い」を立てることへの憤りが募り……

 最初は月に2、3回、ポツリポツリと仕事が入り始めた。そのたびに、「この日、私、仕事に行っていいでしょうか?」と夫にお伺いを立てることになる。まぁ、子どもの面倒は母親が見るのが基本だと私は考える方だし、母乳も定期的にあげないとならない。何より、子どもとなるべく一緒にいたいという気持ちも強い。私が家にいるのがベースで、仕事に行くときだけ夫に託すのだから、「お伺い」を立てるのも仕方ないか。頭の片隅で、ちらっと、なんだかイヤな感じがよぎったような気もしたが。

 そのうち、週に1回、週に2回と仕事のペースが上がっていった。すると、「お伺い」も頻度を増す。ちらっとだったイヤな感じも積み重なっていくと、心の中をダークサイドが支配していく。その結果、産後の情緒不安定さや家に閉じ籠っているストレスも相まって、一気に「ドカーン!」ときた。

 「なんで、いちいち仕事行くのにお伺い立てなきゃなんないのよ! 買い物行くのも何するのも自由にできない。普通のことが普通にできない。何にもできないじゃん!!」

 とかなんとか、夫に向かって叫んだはずだ。興奮してたので、よく覚えてない。だって、仕事に行くということは、エライことのはずだ。お金を稼いで家計に貢献するのだから。買い物だって行かないことにはご飯が作れない。やるべきことをやろうとしてるのに、なんで誰かの許可を得ないとならないのか。しかも、なぜ私が下手に出るんだ? それっておかしいだろう。夫婦平等なんじゃないのか。2人で子育てして2人で仕事するんじゃないのか!

 今振り返ってみても支離滅裂な文章になるのだから、そのときどんな言葉を発していたのかは推して知るべし。私のあまりのけんまくに、「嵐が過ぎるのを待とう」と決め込んだのか、夫は何か反論するでもなくただただ聞いていた。きっと、私の言葉はスルーして、「お昼ご飯何食べようかな」とか考えていたに違いない。