2013年4月、大阪市立小・中学校に11人の民間出身校長が誕生しました。そのなかで唯一の女性が大阪市敷津小学校の山口照美校長。0歳児を含む2児の母でもあります。校長としての仕事と家事・育児、そして介護…。リアル子育て世代の女性民間校長が直面する様々な問題から、働く女性の現在と未来像が見えてきます。

右手にライフワーク、左手に飯の種

大阪市の小中学校公募校長は中学校2人、小学校9人が採用された。筆者が配属された敷津小学校はミナミの繁華街にほど近い
大阪市の小中学校公募校長は中学校2人、小学校9人が採用された。筆者が配属された敷津小学校はミナミの繁華街にほど近い

 その日、生後3カ月半の息子の背中をトントンしながら、Facebookを眺めていた。ある人が、リンクをシェアしてつぶやいていた。 「どんな人が応募するんだろう」

 リンク先には「大阪市立小・中学校の校長を公募します」とある。

 「どうせ45歳以上からで、教員免許必須なんだろうな」と、何気なく募集要項を開いた。

 「35歳以上、管理職経験あり、教員免許不要」

 進学塾の校長になったのは25歳の時。3年間の管理職経験もある。現在、39歳。要項を慌ててスクロールし、締め切りを確認する。2012年9月10日まで。今日は9月8日、速達で出せば間に合う。

 寝付いた赤ん坊をそっと布団におろし、ダウンロードした応募書類と論文に取りかかり、明け方の授乳時間を挟んで書ききった。添付する証明写真を撮りに行く暇がなく、夫にiPhoneで撮影してもらってコンビニで出力した。写ってはいないが、足元には赤ん坊が寝転び、娘がピースサインで写ろうと飛び跳ねている。最終的に投函(とうかん)する前、少しだけ迷った。

 「子どもがかわいい盛りに、責任の重い仕事についていいものだろうか」

 いや、でもこれは千載一遇のチャンスだ、と思い直す。

 ずっと教育現場に戻りたかった。28歳で塾を退職し、小さな広報代行会社を運営しながらも、教育ブログを書きため、高校での進路講演を引き受け、児童養護施設での学習支援ボランティアに参加した。「経済格差を教育格差にしない」をテーマに、仕事がしたかった。

 ビジネスを続ける上で、私が意識してきた言葉がある。

 「右手にライフワーク、左手に飯の種」