好きなことが、そのまま仕事になれば誰もが幸せだ。でも、家族を背負えばそうはいかない。塾を退職し、小さな企画・広報会社を経営して10年以上。教育ジャーナリストの仕事だけでは、家族を養うのは不可能だ。常に時代を読んでサービスを向上させつつ、「飯の種」になる仕事をし続けるしかない。

 でも、もしかしたら。

 年を取って、自分で塾を開けるような道があるかもしれない。子ども向けの教材作成や若手教師の研修に関われる日が来るかもしれない。

 その日のために「ライフワーク」=「教育の仕事」を手放さずにいた。

 今、育児を理由に応募をやめたらどうなるだろう。

 橋下徹・大阪市長の方針で決まった公募校長、選挙の結果次第で無くなるかもしれない。

 そして、今回の民間人校長が失敗に終わったら、来年は?

 「このプリントはいつ出すか?」「今でしょ!」と授業中に言いまくる小学生に苦笑しながら、「ホンマに『今でしょ!』やったなぁ」と、振り返る。

 今日は、応募から8カ月後の2013年5月9日。

 大阪市立敷津小学校の校長に着任して、2カ月目に入った。今日は朝から、浪速区の校長会。学校に戻って給食を食べ、校内を巡視していたら掃除時間に騒いでいたクラスがあったので、そのまま5時間目の授業まで入る。夕方には修学旅行の打ち合わせ会、書類や学校日誌にハンコを押し、学校のサイトを更新して帰宅したところだ。学校マネジメントには、情報収集が欠かせない。数カ月先・1年先・3年先の見通しを立てながらも、「目の前の課題」にも日々追われる。児童がいる間は仕事にならないので、持ち帰り仕事も多い。

「母性神話」「大黒柱プレッシャー」より「ニコイチ」の発想で

子どもという散らかし魔とは、平日は戦わない。「あきらめ」という名の割り切りも必要だ
子どもという散らかし魔とは、平日は戦わない。「あきらめ」という名の割り切りも必要だ

 20時過ぎに帰宅すると、夫が5歳と0歳に食事をさせた戦いの跡が広がっている。食べこぼしがひどい。

 保育園に18時半に迎えに行ってご飯作ってお風呂入れて21時には寝かしつけて……逆算すると私も19時半には帰りたいが、突発的な仕事が多い小学校の現場では難しい。加えて「民間人校長」のため環境が激変、覚えることが多くて勉強してもしてもし足りない。夫ひとりに任せきりの夜が多くなった。

 夫も介護パートと自営業を掛け持ちしているため、家事はたまりがちだ。

 洗い物より寝かしつけ優先、洗濯物はたたむ暇なく、山から掘り出して着用する。床に物が散らばり、せっかく買ったお掃除ロボットのルンバが動かせずにホコリが積もっている。