「これまで私立に行くことでしか受けられなかった中高一貫教育を、公立の授業料で受けられる」と人気の公立中高一貫校。現在、都内には公立の中高一貫校が11校あり、設立理念など共通する部分はあるものの、学校ごとのカラーや教育方針は少しずつ異なります。「せっかく入学したのに、校風がわが子に合わなかった……」といったことがないよう、志望校がどのような学校なのかを事前に調べておきたいものです。

合格実績等の数値やパンフレット、ホームページだけではなかなか見えてこない各学校の特長をもっと詳しく知りたい!と計6校の校長と生徒に取材した「人気都立中高一貫校 校長&生徒会長インタビュー特集」。来年度受験を控えたご家庭はもちろん、これから志望校選びを始めるご家庭は、人気の背景と受検倍率、適性検査の傾向などを盛り込んだ【公立中高一貫校の今 特集】と併せて志望校選びや受検対策にお役立てください。

【人気都立中高一貫校 校長&生徒会長インタビュー特集】
第1回 小石川 東大合格2ケタ 理数・国際教育に尽力
第2回 桜修館 自主性を大切に、論理力・表現力を学ぶ
第3回 両国 体力・道徳力も重視 総合的な人間力を磨く ←今回はココ
第4回 白鷗 日本の伝統文化を継承し、国際社会で花開く
第5回 立川国際 帰国生2割 国公立後期まで伸びる学力
第6回 武蔵 国公立大97人合格 探究・協働・貢献の心

 芥川龍之介や堀辰雄、石田衣良などの著名な作家の卒業校であることでも知られる「都立両国高等学校・附属中学校」。今年で、創立116年目を迎える伝統校です。「勉強の両国」と称されることもあり、塾や予備校に行かなくても希望の進路を実現できる学校として人気。平成28年度の応募倍率では都立中高一貫校の中で最高値(男8.1、女8.12)を記録しています。学習面のサポートも手厚く、学習生活記録表などを活用することで子どもの家庭学習時間を確保し、土曜の課外活動や夏休み・冬休みなどの補習なども充実。英語科では新たな取り組みを実践しており、オールイングリッシュ環境での英語授業をはじめ、エッセーライティング、ディベート、スカイプを利用した外国人講師との英語レッスンなど「読む・聞く・話す・書く」の4技能育成のための熱心な授業が受けられるのも魅力の一つです。

 生徒の登校時には校長・副校長が校門前に立って朝の挨拶をしたり、生徒が校長室に五目並べや将棋の対戦に訪れたりするなど、トップ自らコミュニケーションを大切に考えた活動を日常的に行い、教師と生徒の心の距離が近く、人間味あふれる校風。28年度実績で卒業生に対する大学進学(現役)の割合が81.1%と進学面でも良い結果を出しています。 

先取りは行わず、基礎学習を重視 学びの意欲を高める手厚いサポート

DUAL編集部 (取材開始早々、ライターの名刺の住所に関連した鯨岡校長との雑談から始まり、初対面から懐に入ってくるようなフレンドリーな校長の人柄に一同和みつつ)。冒頭からご近所話で盛り上がるのは、今回の特集取材で初めてです(笑)。本題は、両国の「魅力」と「特色」ですね。小石川が理数に強いとされる一方、両国は文系が強いと、対比されるようなイメージを持つ方も少なくありません。優れた文士達を輩出された学校ということで、実際国語教育にも特に力を入れているのでしょうか。

鯨岡校長(以下、敬称略) そうでしたね(笑)。受験生の皆さんは学校を選ぶときに、校風や得意分野、相性、立地など色々な視点から選びます。「卒業生に優れた文士がいる」というのも両国の個性の一つであるとは思います。ただ、わが校は国語系に強い学校と見られがちなのですが、実は、理系もかなり強いんです。というのも、国語に限らず全科目の基礎学力を着実に身に付けることに、最も力を入れているからです。

東京都立両国高等学校付属中学校 校長 鯨岡廣隆さん
東京都立両国高等学校付属中学校 校長 鯨岡廣隆さん

 各学年で学ぶべき内容を、確実に、深く定着させるために、中学校では高校で習うことを先取りした教育をすることはありません。附属中学に入学した生徒は高校受験がないため、3年間みっちりと時間をかけ、やるべきことを深く身に付けることができます。そういった環境で、高校から入ってくる生徒との学力差が出ないよう、すべての子が中学3年間で必要とされる学習内容を確実に身に付けるために、学校側も生徒一人ひとりに合わせた手厚いサポートを行っています。

 合格を目指して勉強し、意欲を持って両国に入学してきた生徒達なので、基本的に勉強を嫌がる子はいないんです。基礎を重視した学習は中学1年生からきちんと習慣づけていきますので、一つ一つの学びを吸収しようという姿勢がおのずと身に付いていきます。基礎的な学習をしっかりと行うことで、塾や予備校を頼らずとも、高校・大学に向けた学力へと自然に結びつくと本校では考えています。

―― 嫌々学ぶのではなく、「勉強が好き」と思える環境は大切ですね。ポテンシャルの高い子が集まってくるということもあるかもしれませんが、生徒の学びの意欲を高める仕掛けなどはあるのでしょうか。

鯨岡 生徒達の未来への可能性や学びの熱意を受けて、教師陣も都立中高一貫校で積極的に教えたいという気持ちを持って、公募で手を挙げて来ています。目をキラキラさせて勉強をしたいと思っている子達の顔を見ながら、先生もそれに応えようとする良い循環になっているのでしょう。また、先生同士も年齢にかかわらず、新しい情報を入手し、良い授業法を積極的に取り入れようと切磋琢磨する姿も目にします。

 いわゆる「面白くない授業」というのは、授業中に寝ている生徒の数がバロメーターなんです。寝ないためにはどうするか? それは先生の意欲と工夫次第です。だからこそ、先生もそれぞれ授業を面白くする様々な要素を取り入れています。例えば、先日私がのぞいた高校3年生の授業は、豚の頭部をまるごと4人一組で解剖していて驚きました。本物に触れたり、実験したりすることは生徒にとって、大きなインパクトがある体験。生徒に興味を持たせる「驚き」と「発見」をいかに授業に組み込んでいくかが、とても大切だと思います。

【次のページからの内容】
・1年からオールイングリッシュ環境 「私も中学時代にこんな授業を受けたかった」
・大学合格がゴールではなく、社会でどのように活躍していくかが大事
・学力に加えて、体力、道徳力も備えた魅力的な大人に
・【生徒会長インタビュー】志望理由と感想、合格の秘訣、キャリアビジョン
・「勉強の両国」のリアル 苦手科目が好きになった!