双子の男の子の子育てに奮闘しながら、精力的にステージに立ち続けるメゾソプラノ歌手の林美智子さん。歌にすべてを注ぐ生活が一変したことは、それまで見えていなかった様々なことに気づく機会になったといいます。「下」編では、多忙な日常をポジティブな気持ちで過ごすことで深まった歌への思いなどをお聞きしました。

「上」編: 林美智子 出産で歌手として、一人の人間として変化

お母さん達が優遇されているヨーロッパとの違いを感じた

日経DUAL編集部 日々の生活の中で、子育てをしていて気付いたことはありますか。外出一つとっても、1人で双子の赤ちゃんを連れて出かけるのは大変なことだったと思います。

林美智子さん(以下、敬称略) 双子のベビーカーって、やはり電車やバスではいい顔をされないんですよね。よっぽどすいている時間を狙っても、残念ながら……。ヨーロッパに留学しているときに、あちらではどれだけお母さん達が優遇されているか、むしろ威張っているか(笑)を見ていたので、日本はまだまだなんだというのを感じたりもしました。私は結局1カ月で集中して免許を取り、車で子ども達を連れて出かけていました。都心のバリアフリーのケアもまだまだですよね。車いすの方々については以前から思っていましたが、子どもを産んでなおさら感じるようになりました。

 日本人は共同で何かをする能力には長けていて、そこがいいところでもありますが、個になったときにあまり我を通さないで、我慢したり諦めたりしてしまいがちです。アメリカのお母さんなんてすごいですよ。女王様のごとく、「どいて、赤ちゃんがお乗りよ!」って感じですからね。一度に変えるのは難しいことだけど、コツコツと取り組んでいかないと逆に変わらないことだと思います。

 クラシック音楽も同じなんですよ。若い人に聞いてもらいたいけれど、なかなか難しい。そういうなかで、大きな話題でドーンと注目を集めるようなことではなく、コツコツと維持して次の世代に引き継いでいくことが非常に大切なんです。地道に土台を敷き詰めて、この素晴らしい分野を伝えていく。大変ではありますが、日本人はそういうことが得意だと思っています。

―― 妊娠、出産を経て、「歌うこと」に対する意識や取り組み方にも変化はありましたか?

 それはもう、ガラッと変わりました。「歌があっての人生」だったのが、「人生があって、歌がある」というふうになったんです。