子どものいる夫婦が「離婚したい」と考えたときに、真っ先に心配になるのは子どものことではないでしょうか。シングルマザー(ファーザー)になって育てていけるのか。父親(母親)不在の家庭で、子どもの精神面に問題は起きないのか。経済面で苦労をかけてしまうのではないか。養育費は確保できるのか。財産分与でローン支払い中のマンションの権利を得たら、養育費がもらえなくなるのではないか。何より親権は得られるのか……。将来へ漠然とした不安を最小限にするためにも、離婚にまつわる子ども関連の知識と起こりうるリスクはあらかじめ押さえておきたいものです。

 「子どものための優しい離婚講座」の2回目にもある通り、民法の一部改正で、離婚に際しては「面会交流」と「養育費の分担」があること、これらの取り決めをするときは子の利益を最も優先して考慮しなければならないことが明記されました。これは言い換えれば、民法が改正されるほど、どちらも守られているとはいえない現状があります。

 裁判離婚であれば、そもそも話し合いの重要なポイントとなってくるでしょうが、たとえ円満な協議離婚だったとしても、子どもに関係することはきちんと決めて、決め事を守ってもらいたい(守っていきたい)もの。特集第5回では、離婚後の生活に大きく関わる「親権」「養育費」「財産分与」について、後悔しないためにしっかり取り決めておくべきノウハウを小杉俊介弁護士と徳原聖雨弁護士に伺っていきます。

【子どものための優しい離婚講座 特集】
第1回 読者の7割が「離婚を考えた」 夫婦の実態調査
第2回 意外と知らない離婚イロハ 弁護士相談、調停、別居
第3回 「リコン」の三文字 パンダ親父にも意外と身近?
第4回 教えて弁護士さん「これって離婚できますか?」
第5回 親権の行方、ありがちなトラブル 養育費の現実 ←今回はココ
第6回 離婚or別居 子への影響を考えて親ができること

【親権1】妻のほうが有利って本当?

 「日本では妻のほうが親権を取りやすい」。そんな話を聞いたことはありませんか?

 親権については、民法の第818条から第837条で定められています。これによれば親権とは、「未成年の子どもを監護(監督し、保護すること)および教育し、財産を管理し、子どもの代理人として法律行為をする権利や義務」のことをいいます。

 婚姻中は、子どもの父母(夫婦)が共同で親権を持ちますが、離婚をする場合には夫婦どちらか一方が親権者となります。

 親権には、「身上監護権」と「財産管理権」の2つがあります。前者は例えば住む場所を決めたり、しつけをしたり、働くときにその許可をしたり、身分行為の代理権のこと。後者はいわゆる財産の管理権と子どもの法律行為に対する同意権を指します。

 2012年に施行された改正民法には「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」(民法第820条)、「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」(同第822条)とあり、つまり「子の利益のために」という点が強調されています。

 “子どもの利益のために”という概念は民法で明文化される前からあり、これにより妻が親権を取りやすい現状、つまり「母性優先」で親権者が決まる傾向につながっていると、小杉俊介弁護士、徳原聖雨弁護士は指摘します。

 なぜ、「子どもの利益=母性優先」となるのでしょうか。また、夫側に親権が認められるのはどのような場合でしょうか。小杉弁護士、徳原弁護士の解説のもと、次のページから詳しく見ていきます。

“子どもの利益のために”という概念のもと、日本では「妻が親権を取る」ことに有利な傾向がある ※写真はイメージ
“子どもの利益のために”という概念のもと、日本では「妻が親権を取る」ことに有利な傾向がある ※写真はイメージ

【次ページからの内容】
●「親権」は得られなくても、「監護権者」になれる場合がある
●相手の浮気が原因でも、「養育費」は増えない
●養育費の遅延を給料から直接差し押さえる方法
●一括支払い+月賦が安全? 慰謝料での確保は?
●子どものためには面会交流をするべき
●収入が多いほうが「分け与える」財産分与の考え方