以前、日経DUALで掲載し反響を呼んだ楽天の記事がある。「楽天 ワーママ4倍に急増! 『時短でも減給ナシ』」「楽天ルポ(2) ママ社員支援はCSRでなく戦略です」だ。その記事でも一部紹介した「時短でも減給なし」「二子玉川の社屋に完備された社内託児所」「育児と仕事を両立する女性マネジャーの比率は全国平均の倍」といった、制度、意識、モチベーションの3つの柱からママ達を支援する経営戦略に、多くのママ達が共感し、拍手した。ある意味、羨望にも似た多くの声が寄せられた。

とはいえ、「恵まれた環境」「手厚い配慮」を受け取りながら、一方で同社を辞めていくママも皆無ではない。ある日、楽天を「卒業」したママ達が集まるランチ会があると聞きつけ、潜入を申し出た。「制度を変えるだけでは不足。制度、受け入れ側の意識・体制、ママのモチベーション。この3つがうまくかみ合ってこそ、ママ社員の能力を活かすことができる」と、当時の人事戦略室担当者は課題を指摘していたが、現実はどうだったのか興味があった。「卒業」といえば聞こえはいいが、要は一身上の都合で「退社」したママ達の集まりなだけに、どんな本音が飛び出すのか。内容次第では記事にするのが難しいかもしれないと恐る恐る出かけた取材だった。

ところが蓋を開けてみれば、ママ達の本音トークは身構えていたこちらが拍子抜けするほど「清々しい」ものだった。参加者の顔ぶれは転職した人、起業した人、一時的に専業ママを選択した人と実に様々。卒業後の選択だけでなく、興味深かったのは参加者の入社時期の差異だ。

上場して間もないベンチャー時代の楽天では出産経験者など皆無で、「育休って何?」という会話が飛び交っており、「妊娠したらもう仕事には戻れないと思っていた」と笑うママもいれば、楽天初の管理職ママとして快挙を成し遂げたママも。「激増するワーママを経営戦略として支援できなければ会社の成長はない!」と楽天の制度づくりに奔走していたママもいた。その他、「制度が充実し、ワ―ママが活躍できる企業」だとエージェントから太鼓判を押されて楽天に転職を決めたママも、先輩達の武勇伝を聞きつけて参加した現役の楽天ママもいた。

会社の発展ステージによってママ達の受け入れ態勢の違いがあり、彼女達自身が自らその改革者。何より興味深かったのは、むしろママ達の共通点にあった。それは「卒業」してなお、彼女達に染みついている「常に成長したい」というモチベーションの圧倒的な強さだ。これはまさに短期間で結果を求められる楽天の風土の中で身に付けた価値観や目的意識と呼ぶべきもの。楽天を離れてなお、「楽天魂」とでも呼ぶべきバイタリティーに溢れていた。

「もっと成長したい」 このモチベーションは止まらない

 楽天を卒業し、銘々の信じる道を行くママ達。今回の記事では、あえてそんな彼女達の発言をダイジェストで紹介していきたい。

 「元楽天のママ達を集めようと話が出たとき、誰からともなく、『どうせやるならただのママ会じゃつまらないよ』という声が上がりました。ママだからと何かを諦めたり、現状に満足したりするような人じゃなくて。ママになったからといって“キャリアのあがり”なんて考えるのではなく、『もっと頑張りたい』『もっと何か新しいことをしたい』という志のある人達で集まろうということになったんです。元楽天ママの集まりには、他では味わえない刺激があります。みんな意識が高いし、行動力も実行力ある。辞めて初めて気づかされたのは『対立して当たり前』という前提でコミュニケーションができる心地よさ。意見のぶつかり合いは当たり前。衝突を恐れて無難に受け流していたら、それこそ非効率。でも、楽天での当たり前は、世の中の当たり前ではなかった(笑)」(Aさん)