広告代理店最大手である電通には、男性社員が育児休業制度や育児を目的とした有給休暇など、いわゆる育休を取得している率がずばぬけて高い部署があった。「ビジネスデザイン・ラボ」――電通が培ってきたクリエーティブスキルを生かし、広告制作以外のビジネス領域に展開することをミッションとする部署だ。

 前編記事「電通の男性社員が育休を取って得たものとは?」では、この部署に所属して育休を取った男性社員4人にインタビューし、男性にとっての育休取得の理由や意義について聞いた。今回の後編記事では、4人の職場復帰後の仕事への向き合い方や葛藤について紹介する。

 もともとは全員がCM制作に携わっていたコピーライターで、今でもクリエーティブ職として多数のプロジェクトに関わる傍ら、2〜5歳の子どもを育てる4人。彼らは育休後、どんな働き方に変わったのだろうか。

子どもは最も重要な「クライアント」だ

 森口哲平さんと大山徹さんは、妻もフルタイムで働いており、共働きとして毎日の育児・家事を妻と分担している。妻が高校の教員で、2歳と5歳の男の子を持つ森口さんは通常より1時間遅い育児時差通勤を使い、保育園の送りを担当。また週2回は子どもをお風呂に入れるため早く帰宅する。3歳の男の子を持つ大山さんは、保育園の送りや食器洗いに加えて、子どもの寝かしつけも行っている。一方、赤木洋さんと越澤太郎さんの妻は現在専業主婦だが、妻が育児から解放された自由な時間を過ごせるように、土日の育児を担っている。

 4人とも、育休から復帰後、仕事への取り組み方に変化があったという。

「子どもができる前は『仕事ができない時間』というのはなかったんです。自宅でくつろいでいても遊んでいても、頭のどこかで企画を考えているし、締め切りを意識して常にうっすら仕事していた。それが育児に携わるようになると『仕事が絶対にできない時間』ができたわけです」(森口さん)

「そう、子どもが起きている時間はできませんね。自宅で思いついたアイデアをメモしていたりしていると、子どもが寄ってきて『はい、終わり〜』と取り上げられる(笑)」(越澤さん)

 企画の仕事をしていると、平日でも休日でも、仕事のことを常に考えざるを得ない。だが、育児に携われば携わるほど、子どもの都合に合わせて対処しないといけない時間が長くなり、仕事以外の時間が生活のベースになる。そのあたりの仕事とプライベートとの切り替えはどう考えているのだろうか。

共働きとして子どもの寝かしつけも担当している大山徹さん(写真中央)
共働きとして子どもの寝かしつけも担当している大山徹さん(写真中央)

 大山さんは、この切り替えを「子どもという重要なクライアントが1つ加わった、という感覚です」という形で説明する。「クライアントと打ち合わせの予定を入れていたら、同じ時間に他の会議を入れることは避けます。それと同じで、子どものために使う時間は事前に確保して予定に組み込んだ上で、仕事の予定をどのように入れていくかを考えるようになりました」

 他の3人のスタンスも、大山さんとほぼ同じ。仕事の空き時間に子どもの相手をするのではなく、わが子という『最重要クライアント』を仕事や生活の中に組み込んで、新たな働き方を模索することになった。