体育の苦手な子どもを救いたい
近年「体育の塾」が人気を集めていることは、みなさんもご存じではないでしょうか。
ただ、その存在は知るものの実際に体験した人は、まだまだ少ないと思います。
そこで今回から3回にわたって、体育塾とはどんなところか、そしてどんな指導をしているのかを、実際に「跳び箱」「縄跳び」「逆上がり」のレッスンの模様を通してお伝えしたいと思います。
取材にご協力いただいたのは東京を中心に展開する「体育指導のスタートライン」さん。(授業の詳細などについては、ホームページhttp://www.start-line.net/をご覧ください。)
同塾の笑顔が素敵な大岡元さんに、まずこのスタートラインで教えている種目からお話いただきました。
「私たちは体操、ダンス、スキーなど様々な分野の体育指導を行なっていますが、なかでも人気があるのは、春と秋のかけっこ指導。これは運動会で、少しでも速く走りたいというニーズですね。その次が水泳でしょうか。近年は、受験対策で利用される方も増えています」
受験対策とは、いわゆる「お受験」のこと。学校によってはドリブルなどの体育試験があるので、こういった実技対策に訪れる人も多いそうです。このように多種多様な体育を指導している同塾の特長は、少人数制だといいます。
「私どもが、少人数制にこだわっているのは、とにかく体育が苦手な子を救いたいという理念があるからです。そのためにレッスンの人数を絞って、個々人の課題と向き合っています」
「他の体育塾でうまくいかなかったような人にぜひ来て欲しい」とも語るスタートラインは、まさに「体育塾の駆け込み寺」のようなスタンスなのです。それならばきっと、体育の落ちこぼれに効果的な「特効薬」のようなものをお持ちなのではないでしょうか。すると意外な答えが返ってきました。
「それがないんですよ」
子どもは覚えるのも早いけど忘れるのも早い
「まず認識していただきたいのは、コツを知ったからといってすぐ上手になるわけではないということです。この塾を訪れる多くの親御さんが『コツを教えてください』とおっしゃいます。もちろん、各種目にコツはありますし、それは伝えますが、それだけで上手になるわけではありません」
これはひとつの金言ではないでしょうか。私たちは、つい「コツを教えて」と言いがちですし、それを求めてしまいます。ただ、それだけでは解決しないと大岡さんは言います。では、何が必要なのでしょうか。
「とにかく繰り返し練習することです。速く走るでも逆上がりをするでも、スモールステップというように、小さな目標をいくつも作って、それをコツコツクリアするのが大切です。子どもは覚えるのも早いですが、忘れるのも早い。コツを教えてパッとできたとしても、すぐにできなくなることもよくあります。だから、とにかく反復することが重要です」
この反復のため親に要求されるのが根気。何度言ってもできない子にイライラしたり、つい怒ってしまう──こんな経験をしたことのある人は多いでしょうが、もちろん怒ってはいけません。親が子どもに体育を教えるならば、決して怒らず根気よく見守る。そして、自らもやってみせるならば、うまくやる必要はない。それよりも「頑張る見本になって欲しい」と大岡さんは言います。
「親は先生ではないので、上手にできなくてもいいと思います。それよりも頑張る見本になって欲しい。できなくても、コツコツ頑張る姿勢を見せれば、きっと子どもも頑張れる。そういう姿を見せれば、親ができなくても決してバカにしない。それが子どもという存在だと思いますよ」
コツですべてが解決すると思わない。親は子どもにとって頑張る見本となる。体育が苦手な子どもたちと向き合ってきた「スタートライン」ならではの深みある言葉ではないでしょうか。
では、そんなスタートラインの指導はどんなものなのか?? それを確かめるべく、ある日の夕刻、息子を連れて「跳び箱」「縄跳び」「逆上がり」のレッスンを受けてきました。場所は、地下鉄の外苑前の駅から徒歩5分ほどにあるスタートラインの明治神宮教室。まずは、跳び箱からスタートです。