日本サッカーのご意見番として、愛情溢れる辛口トークが多くのサッカーファンに愛され続けているセルジオ越後さんをご存じですか?
辛口解説者としての一面が強調されがちですが、実はセルジオ越後さんは、1978年以来、日本サッカー協会公認「さわやかサッカー教室」で多くの子どもたちにサッカーの楽しさを伝え続けてきました。教室は現在までに1000回以上、全国各地で行われ、セルジオさんとサッカーで遊んだ経験を持つ子どもたちの数はなんと延べ60万人以上になります。私、國尾一樹も小学5年生の時、ブラジル仕込みの超絶テクニックを披露する“面白いおっちゃん”であるセルジオさんに、サッカーの本当の楽しさを教わりました。
現在はアイスホッケーチーム「H.C.栃木日光アイスバックス」のシニアディレクターを務めるなど、サッカーのみならず日本スポーツ界に貢献し続けるセルジオ越後さんに「日本の親とスポーツ教育」というテーマで話を伺いました。第1回から、今どきの親に対して「遊び心があまりにも足りない」という、耳の痛い言葉が……。
遊びを理解できない日本の大人が、あまりにも多い
── 子どもがある程度の年齢になってくると、何かスポーツでもさせたいと思う親は多いと思いますが、スポーツを通じてわが子とどう接するのがいいんでしょうか?
セルジオ越後さん(以下、敬称略) ある小学校でさわやかサッカー教室をやっていた時に、子どもたちと一緒に遊んでいる様子を見た校長先生が、こう言ったんですね。「覚えているものだけが教育だ」って。すぐに忘れてしまうようなものは教育ではないの。
結局、そのときの感動だとか思い出だとかが人間を育てていくんだよね。理論じゃないの。理論なんて、誰でもすぐに忘れてしまって覚えてないでしょ。だからこそ、意外とみんな、サッカーには何の役にも立たないようなことのほうが強烈に覚えてたりするのね(笑)。
── 確かにそうかもしれません(笑)。セルジオさんは、子どもたちとミニゲーム中にズルいことやイタズラをしますよね。ボールを蹴り上げて、それをユニホームの中に入れてそのままゴールしてしまって、「手は使ってないからハンドじゃないよ!」とか。
セルジオ越後 そうすると、子どもはすぐにマネをしてみたり、今度は仕返ししてやろうとか考えるんだよね。そういった遊びのなかからアイデアが生まれ、子どもたちが遊びをもっと求めてくるようになるのね。
子どもっていうのは、授業をしたってすぐに飽きてしまう。サッカーなどのスポーツに限らず何事においても、まずは遊びから始まるんだっていうことを親は知るべきだね。残念ながら、日本人はどうも、遊びっていう言葉に対して拒否反応っていうのか、なかなか遊びを理解できない大人があまりにも多い。指導者も含め、今どきの親には遊び心が足りないんだよね。
── スポーツに限らず、何事に関しても遊び心が大切だっていうのは?
セルジオ越後 子どもは遊びが仕事でしょう? 小学校には校庭があって、そこで遊べるから小学生は学校に馴染むようになる。学校に校庭がなかったら、子どもは学校嫌いになるよね。やっぱり、子どもが大好きなのは遊び場。公園も大好きだよね。
例えば、野球。子どもが野球を始めるのに、みんな最初から硬式ボールを使うリトルリーグから始めるわけじゃないでしょ。最初はみんな、公園やそこらの原っぱで遊ぶ三角ベースから始めるでしょ。そこには、野球を教える指導者なんていない。みんな、遊ぶことから始まるでしょ。
コマ回しだって凧揚げだってビー玉遊びだって、それを教えてくれる教室なんて昔からないの。地域の大人やお兄ちゃんお姉ちゃんが一緒に遊んで付き合ってあげて、教えるっていう風景が今はなくなってしまったということなんです。