11月8日公開の映画『トワイライト ささらさや』は、交通事故で死んだ夫が、取り残された母子を心配し、周囲の人に乗り移って様々な手助けをするというストーリーです。原作となった小説『ささら さや』(幻冬舎文庫)を書いたのは、ミステリー作家の加納朋子さん。ご自身の子育て経験を基に、PTA活動に苦闘するワーキングマザーの姿を描いた『七人の敵がいる』(集英社文庫)などの作品もある加納さんですが、『ささら さや』も、お子さんが生まれたことがきっかけで書いた作品だそうです。ご主人と「二人掛かりでよってたかって」子育てをしてきた加納さんに、映画のお話や、子育てのお話を伺いました。

子どもがいないと見えない世界は確かにある

──映画『トワイライト ささらさや』の原作となった小説『ささら さや』が発行されたのは2001年。この作品はお子さんが生まれたことがきっかけで書かれたそうですが。

 私はデビュー以来、日常の延長線上でお話を作ってきました。

 子どもが生まれて、子どもがいないと見えない世界が確実にあると思ったんです。今しか書けないものがあるはずだって。それで、赤ん坊とお母さんが出てくる話を書こうと考えました。

──夫を事故で亡くし二人きりになった母子を、幽霊になった夫が見守るというアイデアは?

 幽霊が探偵役の連作短編を書きたくて。そこがスタートです。

 幽霊探偵って面白いじゃないですか。幽霊は見えないわけだから、出てくるには誰かに乗り移る必要がある。これも演出として面白くできそうだし。

──幽霊を探偵にするのはいいとして、なぜ夫を幽霊にしようと?

 赤ん坊とお母さんが出てくる話に、幽霊を出すとしたら、必然的に旦那さんしかないと(笑)。

──なるほど、「必然的」ですか(笑)。ご主人の反応は?

「なんて話を書くんだ」と冗談っぽく言われました(笑)。「縁起でもない」って。でも、まあ、ごめんねって。

子どもを守れない親は駄目だと実感しました

──『ささら さや』で強調したかったことは?

 私は誰かが成長するお話が好きなんです。大げさな話でなくてもいいから。

 主人公のサヤは、最初、本当に頼りなくて弱い。実際、読者の方の「サヤが弱過ぎてイライラする」という感想も見かけたのですが(笑)、そんな彼女が最後には曲がりなりにも母親として強く成長していく。そういうお話が書けたらいいなと思って書き始めたんです。

──映画でも、幽霊の夫や周囲の人達に支えられながら、主人公サヤは母親として強く成長していきます。

 作品の中で、サヤが「今までは弱いことは罪じゃないと思っていたけれど、守るべき小さな対象がいる場合は、弱いことは罪なんだ」と自覚するシーンがあります。これは私も親になって実感したことなんです。子どもを守れない親は駄目だと。はっきりと罪なんです。

 だから小説を書きながら、本当に最初は弱くて頼りなかったサヤが、色々な人の力を借りつつ、最後にはしっかりと子育てをしていくようになるところが見どころになればと考えていました。

 今回の映画でも、そこに共感していただけるとうれしいですね。

最初は頼りなかったサヤだが、様々な人達との出会いのなかで、強い母親に成長していく
最初は頼りなかったサヤだが、様々な人達との出会いのなかで、強い母親に成長していく