ワンオペ育児は、なぜダメなのか
―― ワンオペ育児による母親への負担は明白ですが、本書では夫婦が育児を分担し合う「チーム育児」を提唱しています。チーム育児に変えたほうがいいのは、なぜでしょうか?
中原 本当は本書のモチーフになっている浜屋さんの研究知見を直接彼女の口からお話しできるとよいのですが、今日は難しいので、僕がお話しします。個人的には、チーム育児に変わった方がいい理由には、消極的理由と積極的理由の2つがあるように思います。
まず、消極的理由は、共働き育児の場合は「物理的に回らなくなる」可能性が高くなるということです。ワンオペ育児にご尽力なさっている方もいらっしゃるので一概には言えませんが、育児、家事、仕事と多くのことを1人でやることには無理が生じやすいのです。元々、子育てというのは大家族だったり、地域だったりという多くの人の中で分担して、担われてきたものなのではないでしょうか。
積極的理由は、浜屋さんが著書で明晰に論じたように、チーム育児は「仕事の役にも立つ」ということだと思うんです。浜屋さんは、チーム育児で培った経験が、仕事の現場にも生かせることを論じました。育児は決して仕事のためだけに実践されるべきものでもないし、仕事は育児のためだけにあるわけではないです。が、両者には関連があるということが分かりました。
何か目標があって、人が巻き込まれている状態をリーダーシップといいます。協働で育児をやっているということは、そこにリーダーシップ現象が生まれているという状況なんです。リーダーシップは、目標に向かって動いている、振り返ってみれば誰かがついて来ているという社会現象だと思うんです。まさに、育児も組織も同じだと思うんです。育児で経験したリーダーシップ現象は、仕事の現場にも生かすことができます。
―― 先生も3歳と10歳の二人のお子さんを持ち、共働きで子育てをされているんですよね?
中原 僕も、自分一人で子どもを見なきゃいけない日が週に1~2回くらいあります。妻との家事分担は、それでも、まだ不均衡がありますので、申し訳なく思っています。僕が見なければならない日は、朝5時に起き出し、勉強を見てやったり、仕事をしたりして、大学に行きます。『あ、もうお迎えに行かなきゃ』と思って職場を出て、子どもを連れて帰って21時に寝かせながら自分も寝て……。はっと気づくとまた朝5時になってるんです。「気づけば5時」の繰り返しです。もうそのくらい無我夢中なんですよね。ブレーキのないジェットコースターで爆走です。これを一人でやるのは、かなりシンドイと僕は思います。総務省の「社会生活基本調査」の結果をみますと、育児が平日でワンオペ化しているのは、だいたい未就学児の親の5割~6割くらいですよね。本当にお疲れさまです、と申し上げたいです。
―― ワンオペ育児は、つい妻の方も「私が今我慢すれば乗り越えられるのでは」と思いがちですが、ワンオペ育児をやめることは男性にとってもメリットがあるということですか?
中原 まず、先ほど述べましたように、育児の経験は、ムダではありません。男性が仕事に関心があるのなら、確実にチーム育児の経験は仕事に生かすことができます。
また、男性の育児参加は、子どもや妻、つまり家族にとって明確なメリットがあるということです。これは先行研究から明らかです。妻のストレスを軽減することができます。また子どもが暴力などに巻き込まれそうになったときに、いかに抵抗するかを身をもって教えることもできます。また、子どもが反社会的行動に向かうリスクを軽減することができます。
伝統的には、女性が育児も家事もやるという性別分業主義でしたよね。それは、高度経済成長のある一時期だけに作用するもので、男だけが働いても右肩上がりで給料が上がり、世帯収入があがっていったわけです。しかし、もうそういう時代じゃない。安定的な家計を維持するためにも、男と女の性別役割分業を今こそ見直さないといけないんですよね。
そのためには、男性側は育児を“できない”と思い込まずに協働する意識を持たないといけませんよね。それには3つの壁を乗り越える必要があります(下記参照)。妻の先輩風に負けず(笑)、この壁を乗り越えて経験していくことは、仕事にも大いに役に立つはずですよ。