最優先すべきは睡眠の確保。それ以外は命に関わることから
「幼児期の子育てで本当に根性を入れるべきところは、早寝早起きのリズムをつけてあげること。皆さん、あれもこれもしなくちゃと真面目に子育てをしてらっしゃいますが、根性の入れどころを間違えて苦しんでいるなと感じることも多いです。睡眠時間の確保を最優先課題とし、それ以外は、命に関わることを優先して合理的に考えるくらいでよいと思います」
そう話すのは、小児科医として臨床経験を積んだ後、発達脳科学の研究に従事し、「早寝早起き」に関する著書も多い成田奈緒子さんです。「子育て=脳育て」と話す成田さんは、睡眠のリズムをつけることが「脳育」の基本で、体も心も壊れにくい人間を育てるのに欠かせないと説明します。
「小学生に聞くと、朝ごはんを食べていない子は2%くらいで意外と少ない。でも、大学生に聞くと100人中30~40人は食べていません。小学生は親が食べさせるから食べているけれども、1人暮らしを始めるなどして親の手を離れると食べなくなる。朝になってもおなかがすかず、自分で食べ物を取りに行けない。生物として当たり前の脳が育っていないんです。動物として生存の危機ともいえます。大人になったときに自立して生存できる脳と心を育てたかったら、乳幼児期の睡眠が大切だと考えてください」
人間はそもそも「昼行性」の動物だが…
夜になっても街は明るく、テレビやスマホなど光を発するものに囲まれた生活が今や当たり前となっていますが、そもそも人間は昼行性の生物。朝は太陽の光を浴びて目覚め、太陽が沈んで暗くなったら眠るからこそ、様々な機能がスムーズに働く体の仕組みになっています。昼行性の動物という事実を無視することが、昨今増えている子どもの心や体の不調の原因になっていると、成田さんは警鐘を鳴らします。
成田さんのところへは、摂食障害や問題行動など様々な症状を抱える子どもたちからの相談が寄せられますが、早寝早起きのリズムを立て直すことで改善するケースが多いそう。脳には、常に変化し続ける「可塑性」が備わっているので、何歳になったから取り返しがつかないということはないといいます。それでも「特に可塑性の高い5歳までに早寝早起きのリズムをつけるのを目標にするのがよいでしょう」と、成田さんは言います。
自身も生後50日から保育ルームに娘を預けながら、早寝早起きを実践した経験のある成田さん。「共働きで保育園に通わせていると、最初は親もかなり頑張る必要はありますが、リズムが脳に刻み込まれれば、小学生になってから、そしてそれ以降も自分で早寝早起きできる自立した子になり、後で子育てがグンと楽になるんですよ」
楽しく子育てするために必要なのは「正しい知識」と「諦め」だという成田さん。では、次ページからなぜ睡眠がそれほど大切なのか見ていきましょう。