拓也と菜々の新居を訪問した帰り道。麻衣と愛美、北川、坂東の4人は、駅前のショットバーで久しぶりに飲み、愛美の活躍ぶりについて話が盛り上がる。ところが、急に愛美が帰ってしまう。愛美に言われた言葉とそのときの愛美の表情を思い出し、麻衣の心はすくむ――。
【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ←今回はココ
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
坂東、北川…同期の男子メンバー
心の中にいつも、渇きがあった
麻衣が何事にも飽きやすい理由のひとつに、生活に困らないというのもあった。
幼い頃からぜんそく気味だった麻衣は、両親に大事に育てられた。成長してすっかり健康になっても、両親は麻衣を心配してばかりだ。30歳になった今も、健康的な食事を毎日並べてくれている。それだけではない。洗濯、クリーニング、部屋の掃除までしてくれるのだ。世界一甘やかされている30歳じゃないかと麻衣はたまに自嘲するも、快適なこの生活を手放したいとは思わない。
それでいて、心の中にいつも、渇きがあった。
何か1つ自分の生き方の軸になるものが欲しい。逆に言えば、そういうものがないのが、ずっとコンプレックスになっている。
「江原、日経WOMANの取材を受けてるの」
北川が言うのが聞こえた。本気で驚いたような顔をしている。
「だいぶ前の話だよ……」
と、愛美が小さく首を振る。その謙虚な姿を、麻衣はもったいなく思った。
「手帳特集で、いろんな会社のOLとかの、手帳の使い方の話が載ってるんだけど、普通に読んでたら、いきなり愛美が出てきてビックリしたよ。社内最年少の課長って紹介されてたよね」
麻衣は明るい声で言った。
「まじか」
北川が嘆息をもらした。
「すげーな、江原」
坂東もこれには驚いたようだ。