保育園では年少・年中・年長となる3~5歳児。親からすれば、乳児から幼児へと移り変わる時期でもありつつ、小学校入学を意識しながら子育てをしていく時期でもあります。一方、日本の教育は過渡期にあって、これからどんどん教育改革が行われていく状況のなかで、3~5歳児を育てている最中の親は、どのような子育てをしていけばいいのでしょうか? 保育士として12年間、保育に携わってきた大阪教育大学准教授の小崎恭弘さんに、これからの子育てや教育について語っていただく本連載。第6回目の今回は、上手な「褒め方」「叱り方」について、詳しくお聞きしました。

日本人の親は「褒める」のがヘタクソ

編集部(以下、――) 子育ては褒めたり叱ったりの連続ですが、どちらも実は難しいと感じています。上手な方法を教えていただけますか。

小崎恭弘さん(以下、敬称略) まず褒め方から言いますと、日本人の多くの親は、諸外国に比べると子どもを褒めるのがとてもヘタクソなんです。ナゼかというと、日本はへりくだりの文化なので、あまり身内を褒めるということがありません。分かりやすい例で言えば、自分の妻のことを「愚妻」と言い、子どもを「愚息」と言ったりする。愚かな妻とか愚かな息子って、考えてみればなかなかひどい呼び方ですよね。

 日本では、周囲の人からわが子が褒められたりすると、「いやいや、ウチの子なんて、全然ダメでして…」などと謙遜するのが普通です。そんな謙遜を美徳とする文化の中で育っているので、親自身も自分が褒められた経験が少ない。子どもを褒めるのが苦手な親が多いのは当たり前です。

 しかし、ママもパパも最初は違ったと思います。わが子が生まれたばかりの0歳児の頃を思い出してほしいんです。「ちゃんとネンネできて、いい子だね〜!」「いっぱいウンチが出たね〜!」といった具合に、眠ったりウンチが出たりしただけで、親はシッカリと褒めてあげていたことでしょう。何かができたことをそのまま認め、褒めてあげていたのに、子どもの年齢が上がるとともに、褒める頻度は少なくなっているのではないでしょうか?

 小学生の例えで恐縮なのですが、私の息子が小学生の時に、96点を取ってきたんですよ。算数が苦手な子だったから「おおー、スゴいなあ!」と私は思ったのですが、妻はこう言ったんです。「あと4点! 何があかんかったん?」って(笑)。妻の気持ちも分からないではないのですが、息子は褒めてほしくて持って帰ってきたのに、「あと4点」と言われた時のギャップは計り知れないものがあったことでしょう。

―― 96点を取ったことを褒めてしまえば、子どもが「別に100点を取らなくてもいいんだ」と勘違いしてしまうと考えたのでしょうね。

小崎 はい。典型的な日本人の発想の仕方ですよね。「勉強はできて当たり前」という前提に立ち、減点主義で物事を捉えてしまうので、子どもをうまく褒めることができないのです。これに対して、例えば米国人などは、いつもは30点くらいしか取れなかった子どもが50点取ってきたとすると、「半分も取れたなんてすごいね」と褒めるのが当たり前です。

 3~5歳を子育て中の皆さんも、他人事と思わず、ぜひわが身を振り返ってみてください。「〇〇はできて当たり前」という考え方に立ち、「それができるまでは褒めてはいけない」といった発想に陥ってはいませんか? 思い当たる方はぜひ、減点主義から加点主義に発想を切り替え、子どもを見るようにしていただきたいですね。そうすれば、おのずから褒めるべきポイントが見えてきます。「できるようになったこと」を見つけるたびにを褒めていれば、子どもはすくすく伸びていきます。「できなかったこと」を探して叱るより、そのほうが親も子もずっと幸せになれると思います

子どもができるようになったことを見つけるたびにを褒めていれば、子どもはすくすく伸びていく(写真はイメージ)
子どもができるようになったことを見つけるたびにを褒めていれば、子どもはすくすく伸びていく(写真はイメージ)

―― 前回の記事でお話いただいたように、わが子を「個人内差」で比べる、ということですね。普段から意識するように心がけたいと思います。

小崎 日本人の親は褒め方がヘタクソだと言いましたが、じゃあ、叱り方はどうなのかと言いますと、コチラもそう。私は、3つの要件を満たしていないと叱ってはいけないと考えています。それは、次の3つです。